「教育」の観点が入るとモノ選びは変わる
本田:なるほど、「家族×機能×価格×環境」のバランスを考えているという点は、すごくよくわかります。
亀田:そう、いろいろなバランスを取りながら、モノを賢く選んでいるんですよね。SDGsや社会課題への関心も高い60代主婦中心の「1.社会貢献ショッパー」や、食に特化して意識が高い、生協などを昔から使っているような50-60代主婦中心の「2.安心安全ショッパー」とは、明らかに違う意識があります。1と2は調査前から想定していたのですが、3のクラスターは明確には見えていませんでした。それが顕在化し、全体のボリュームからいっても3番目に大きい層だったんです。
亀田:3の人たちは子どもも小さく、共働きで忙しい人が多いです。環境意識についても、毎日の生活の中でできることはしたいけれど、高すぎては選べない。ただ、ここに「教育」という観点が入ると少しモノ選びも変わってきます。たとえばエコな洗剤を子どもと話しながら一緒に選ぶと、教育の要素になりますよね。
本田:確かに。教育の要素が入ると、それは子どもの未来への投資にもなるから、ちょっと背中を押されますね。
ちょうど私たちも、Webメディアを3年運営する中で「自分や家族にとって心地いいもの」から「環境や社会にも優しいもの」「次世代に悪影響がないもの」へと、モノ選びの視点が拡張しているように感じていました。そこで5月末に実施した読者アンケートで、その意識を聞いたところ、半数以上が「同じ価格あるいは多少高くても、環境や社会に負荷のないものを選びたい」と答えていました。(リリースはこちら)。
ロールモデルの消滅 一人ひとりがスタイルを追求する時代へ
本田:また、コロナ禍を経験して「価値観が変わった」という人に、具体的にどのように変わったのかを書いてもらったところ、「家族の大切さを改めて感じた」といった意見は想定どおり多かったのですが、数は少ないながら意外だった意見が2方向ほどあったんです。
ひとつは「子どものことだけでなく、自分も大事にしていきたい/老後も大事だけれど今を楽しみたい」という意見。もうひとつは「社会や仕事の非効率さを実感した/本当に必要か、モノ選びを見つめ直した」という意見です。
亀田:消費に対する目は、確かに一層シビアになりそうです。価格だけに左右されない、品質や安心へのニーズが高まると同時に、無駄な贅沢がそぎ落とされる。この自粛期間に、断捨離をした人も多かったと思います。
本田:はい、断捨離の記事のPVも高かったですし、SNSの投稿もたくさん目にしました。
コロナ禍による心理的影響は、これから中長期的に消費行動に反映されてくると思います。企業がたとえば「3.心地よい暮らしショッパー」や私たちの読者層のような、たしかなモノを選びたいという主婦層にアプローチする際、どのような点を大切にすべきだと思いますか?
亀田:あくまで私見ですが、本質的な価値を持つ商品やサービスが見極められていくと思うので、その価値を地道に誠実に伝えることが大切になるのでは。派手さはなくても、そうしたマーケティングが響くようになるでしょうし、そんなケースを増やしていけたらと思っています。
今後、家族の形はもっと多様化するでしょう。コロナ禍がなかったとしても、今までの常識が塗り替えられていますし、ロールモデルを見つけるのが難しくなっています。もう、ロールモデルという考え方自体が古いのかもしれないです。自分を基準にするのは右へ倣うより難しいことですが、素敵な生活を真似したり、ちょっとだらしなかったりしながら、個々人が気負いすぎず、心地よく自分らしく暮らしていけるといいですよね。
本田:本当ですね。周りがどんなことをしているのかなと参考にしつつも、一人ひとりが自分の“なりたい像”を楽しみながら探っていく。企業には、そんな意識に寄り添ってもらえたらいいなと思いました。今日はありがとうございました!
対談を終えて/本田麻湖
亀田さんのお話には共感するところが多く、特に「ロールモデルはない、個々人でいいよね」という意見には励まされました。これまで私たちは「暮らしを丁寧に、大切にしたい人たち」に向けて記事を作ってきました。コロナ禍によって、家を快適にすることや料理を楽しむことを前向きに捉える方が増えていると実感しています。その流れは自分一人の「心地よさ」を求めるだけでなく、家族や社会、次世代に対しての「丁寧さ、正しさ」への意識につながっています。今後はエシカル消費やサステナブルな社会についての関心も高まっていくのではないかと思っています。文中で紹介したリリースとは別に、マーケターの方々向けに編集部で調査を分析した資料を作成しました。ぜひこちらもご参考いただければ幸いです。