ミレニアル世代の“身の幸(さち)家族”
本田:昭和……! 今ちょうど編集部に30代前半で育休から復帰したスタッフがいるのですが、モノを選ぶ価値観も旦那さんの関わり方も、私のときとは全然違うなと軽く衝撃を受けていたところだったんです。我が家も小5の子どもがいる昭和世代で、共働きでもどこかで私自身「母親がやらなきゃ」という意識が強くて。自分がしたほうが早いですし(笑)。
亀田:小3と年長の子どもがいる我が家も、同じくです(笑)。
少し前になりますが、2016年に「ミレニアル家族の買物行動」を調査しました。そこからは、頑張りすぎずにうまく取捨選択しながら家事や生活を楽しむ姿勢や、夫の家事実行数が多いといった特徴がありました。身の丈に合った暮らしを、という堅実でちょっと我慢した感じとは違うんですよね。こうした特徴のあるミレニアル家族を、“身の幸(さち)家族”と名付けました。
本田:なるほど、2つ3つの結果だけでも納得という感じがします。
亀田:ママが全部背負うといった意識とは、全然違うんですね。家族がお互い柔軟に支え合い、尊重し合って、頑張りすぎず“そこそこに”自分たちなりに楽しめたらいいね、という意識があります。
この層の人たちが徐々に増え始めたという点で、ちょうど2010年くらいが節目だったのだと思います。バブル崩壊までは「いつかは庭付き一戸建て」じゃないですが、横を見ながら一斉に同じ目標を目指していました。それが、いわゆる“失われた10年、15年”の間にリスクヘッジの心理が生まれ、守りに入っていたのですが、新しい世代が登場し始めて「自分たちなりの幸せの基準を作り、小さなことでも楽しんでしまおう」という価値観に着地したのだと捉えています。
環境も価格も教育も大事“心地よい暮らしショッパー”
本田:今おっしゃった「頑張りすぎない」というのは強いキーワードですね。私たちの書籍でも「頑張りすぎない」「〇〇しすぎない」とタイトルに載せるとすごく響くんです。2016年というと、ちょうどInstagramが急激に広がる直前ですね。
亀田:まさに、そうですね。初期は“インスタ映え”が重荷になってしまう側面もありましたが、その後揺り戻しが来て、今はみんなの様子を見た上で「でも我が家はこれが幸せ」というところに落ち着いているのでは。節分なんかも、昔はそこまでのイベントではなかったのに、すっかり定着しましたよね。この季節だと、みんな梅酒を漬けるなど“梅仕事”したりしていませんか?
本田:多いですね! 記事の注目も上がります。それから、この自粛期間のゴールデンウィークは、手作りパンの記事のPVがすごく跳ねました。あと、カステラを作る記事も。
亀田:やっぱり! 記事を参考に作って、SNSにアップしていた人も多かったでしょうね。
本田:博報堂こそだて家族研究所には企業からの相談も多いかと思いますが、企業の方々はたとえば“ミレニアル家族”みたいに、細分化した特定の層を獲得しようとしているんでしょうか?
亀田:企業の意識としては、まだそこまでではないという印象で、今の共働き家庭の実態を聞きたいといった話が多いですね。
ニワトリ卵ではないですが、潜在的なニーズを捉えてプロダクトを提供すると、それによって生活者の具体的な選択肢が増えて市場が拡大していきます。逆に企業がプロダクトに落とし込まないと、ニーズも発掘されない。それでいうと、SDGsもまだ市場が確立していませんが、調査を通してかなり可能性が見えてきています。
先日、定期誌MarkeZineへの寄稿でご紹介したのですが(参考)、昨年SDGsへの関心を探るために大規模な消費者調査をしたところ、8つのクラスターが抽出できました。その中で、まさに読者層と合致するだろうと思ったクラスタが「3.心地よい暮らしショッパー」です。