主語を「コト」から「ヒト」に変更する
ポイントは2つあります。1つは潜在顧客となるお客様に対して、メールや広告などを活用してプルだけでなく「プッシュのアクション」を行うこと、もうひとつは「時間をかけた説明」です。
BtoBの製品・サービスの場合、価格も高く、購入前に社内で稟議をあげることが必須です。しかし、潜在顧客であるお客様に製品・サービスのメリットを伝える時間をとっていただくのは、並大抵のことではありません。メールや広告からWebサイトに遷移してくれたとしても、そこで滞在する時間は3分から5分程度で、その短い時間の中で、3つのなぜを理解してもらうのは難しいのです。このため、セミナー・ウェビナーやインサイドセールスからのフォローを活用して、「時間かけた説明」を実施する必要があります。
「時間をかけた説明」をするときのポイントは、課題の主語を「コト」から「ヒト(顧客)」に変更して伝えることです。

「MA(以下、マーケティングオートメーション)」を例に挙げると、一般的な紹介では「MAができること」などと「コト」を軸に伝えると思いますが、インサイドセールスの段階では「貴社の状況だとMAをこのように活用できます」と主語をコトからヒト(顧客)に転換させ、さらに訪問段階では「貴社のMAを活用した業績UPを提案します」という具合に、よりヒトを軸とした提案に変えていく必要があります。
電話訪問型の営業の時代には当たり前に行っていたことですが、デジタルだけでは難しいのも事実です。昨今のBtoBマーケティングで「インサイドセールス」が注目されているのも、このコトからヒトへの転換が非常に難しく、そして重要であるという背景があるのではないでしょうか。
BtoBマーケティングで扱う課題は複雑かつ潜在的です。購入担当者はそれらを世の中の一般的な課題として認識してはいるものの、自社のケースとして提案されることではじめて対応の必要性を感じる、という場合も多いのです。
ヒト軸のコミュニケーションを描くには、チャネルの理解が不可欠
コミュニケーションを設計する上で重要な点は、広告、メール、SNSなど方法の単位で考えるのではなく、顧客である「ヒト」がどのような動きをしているかを軸に考えていくことです。つまり、顧客の体験を軸に、顧客に寄り添ったコミュニケーション設計をしていくということです。

顧客はソーシャルだけを見ていたり、メールだけを受け取っているわけではなく、セミナーに参加しているだけということもありません。それぞれの段階で、様々なチャネルに触れながら購買に至るという動きをしています。
この各段階で、デジタル、アナログのそれぞれの方法のメリット/デメリットを判断してコミュニケーションを設計していくことが大事です。逆説的に聞こえますが、チャネルではなく顧客を軸にしたコミュニケーションを設計するためには、チャネルの特性をきちんと理解しておく必要があります。
接触の「頻度」と「時間」に分けて考える
ここで各チャネルの得意、不得意を見極める方法についてですが、顧客との接触「頻度」と「時間」に分けて考えることが役立ちます。BtoBマーケティングの場合は、顧客の認知を獲得していないと、そもそもスタートラインに立つことすらできません。そのためには、適切な頻度で接点を持つ必要があります。
接触頻度という面ではやはり、SNSやWeb広告、メルマガなどデジタルチャネルが得意です。一方お客様の心を動かし、「なぜの壁」を乗り越えていくためには、丁寧な説明が不可欠。これはお客様から「時間をいただく」ことを意味します。それがデジタルだけでできるのかと言うと、かなり難しいでしょう。なぜなら、企業のWebサイトを1時間もじっくり調べる人はほぼいないからです。
「時間を獲得していく」という点では、アナログはまだまだ強力です。たとえばイベントに来ていただければ、1日から半日お客様の時間をいただくことができます。セミナーであっても、お客様との接触時間を数時間、確保できます。

そのため、デジタルを通じて接触の頻度を、アナログを通じて接触の時間を確保し、両者をうまくミックスしながら、コミュニケーションを設計をしていくことが重要です。展示会で認知されたお客様に、メールやWebサイトの記事、広告によって高頻度で接触し、そこからセミナーやウェビナーに誘導していく。それ以降はフォローと商談のための対面の営業につなげていくというプロセスの設計が、現在のマーケティングの王道だと言えます。
さらに、コロナ禍以降、多くの企業が取り入れるようになった「ウェビナー」は、うまく活用すればアナログ、デジタル両面のメリットを兼ね備えた施策と言えそうです。加えて「動画マーケティング」も、顧客から説明する時間をいただく施策として非常に注目されています。
ウェビナーや動画マーケティングを実施していくとなると、マーケターには新たなスキルや能力が必要になります。「大変だ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、マーケターにとってはある意味で望ましい現象です。求められるスキルや能力が広がるということは、顧客体験の設計をするという仕事の楽しみも広がるからです。
