大会の構成を変え、観客数を劇的に増加
――なぜそんなに急に観客が増えたのでしょうか?
太田:まず、これまでの課題を分析していくと、フェンシングの大会は、予選が朝の9時くらいから始まり、決勝戦が夜19時からと1日がかりのものでした。これはフェンシングのみならず、レスリングや柔道など、対戦型のトーナメント競技は同様です。
この「1日決勝型」と言われている構成は、オリンピックくらいの強いエンゲージメントと興奮があれば、1日見続けることができますし、この1日を見るためにブラジルまで行くことだってできますが、たとえば日常のある休日に、日本の体育館で、硬い椅子に座って朝9時から夜20時まで会場にいるとなったら、興奮よりも疲労が勝ってしまうわけです。
そこで、初めて見る人たちにとって見やすい構成に変えることにしました。具体的には、別日に準決勝までを終わらせて、決勝戦だけを1日にまとめて開催することにしたのです。フェンシングは3種目×男女の全6種目あるのですが、この6種目の決勝戦をその1日に集約させたのです。そうすると、その日の戦いはすべて決勝なので、どの試合も、勝ったら選手が泣いて喜んだり、家族とハグしたりする熱い展開となるわけです。
――全部決勝戦だと思うと、1日中興奮して見ていられそうです。
太田:観客にとっては良い構成ですよね。ただ、フェンシング関係者からは、この構成に対して賛否の声がありました。いわゆるグローバルなスタンダードのやり方と違うということで反対されたのが、まず一点。もう一つは、大会には500人近くの選手が出場するにも拘らず、これでは決勝に出場する12人しか恩恵にあずかれない、という反対意見でした。
「観客・スポンサーをどう増やすか」を第一に考えなくてはならない
――なるほど……そういった見方もたしかにありそうです。どのように理解を得ていったのでしょうか?
太田:「私は魔法使いではないから、朝から夜までいてもらうような施策は、少なくとも今の自分にはできない」とはっきり伝えました。「だから今までのままで観客席がガラガラの状態が良いのか、やり方を変えて、決勝戦だけでも多くの観客に来てもらうほうが良いかを選んでくれ」と。そうすると、やはり決勝戦に人が多いほうが良いという意見が多数でした。
というのも、実はこれまで決勝戦が最も観客が少なかったんですよね。なぜかというと、体育館に集まる人のほとんどが、参加する選手とそのコーチ、家族、友人、審判といった、関係者ばかりだったためです。そうすると、大会が進むにつれ、負けた選手とその関係者が帰っていくので、決勝戦になると人が少ない状況になっていたのです。
もちろん、優勝者はそれでもすごく高揚感などがあると思うのですが、結局、その結果というのは、テレビでは報じられず、新聞の2行に書かれているか、いないかというもの。
きちんと選手としての価値が認められて、スポンサーに付いていただく状態にするためには、やはり世間の注目を集めなくてはならない。自分自身に対して対価であるお金というものをもらおうとするのであれば、経済圏としてたくさんの人に見てもらわないといけない。ここの原理原則は、選手たちには理解してくれないと困るということはよく言ってましたね。
――そういった考え方というのは、選手時代からお持ちだったのでしょうか?
太田:そうですね、選手時代も会場はガラガラだったので。協会の方から「オリンピックでメダルを取ったら、観客は増えるよ」と言われ続けていたんですよ。北京でメダルを取ったのですが、直後は少し増えたもののやはりガラガラで。聞いていた話と違うと言ったら、「個人戦じゃだめだ、団体戦でメダルを取れ」と言われて(笑)。

――(笑)。
太田:そうした経験からも、オリンピックでメダルを取ることと大会への集客は、相関関係は多少あれど、因果関係はないということがわかったんです。この「因果ではない」というところが、すごくポイントだと思っていて。今、いろんな競技団体のトップの方々が「オリンピックでメダルを取る」ということを団体の目標として掲げられています。
もちろんそれも大事ですが、本来ならばメダルを取ることは現場にまかせて、協会の執行部は「どうやって観客・スポンサーを増やすか」ということを一番に考えていかないといけないと思っています。そうしないと、国からの支援で大部分をまかなわざるを得ないような状態が続き、苦しくなってくる。そこを、まずは変えていく必要性があると、強く感じています。