テレビの価値を再定義する
では、これからのテレビはどうなっていくのだろうか。郡谷氏は、OTT(Over The Top、デジタルコンテンツを視聴・閲覧できるサービスの総称)の広がりや、在京民放キー局が立ち上げたTVerの認知、利用の高まりに言及しつつ、「“テレビ”と言うとき、それはテレビコンテンツをさすのか、デバイスを意味するのかを定義すべき」と話す。たとえば、民放のテレビ番組を配信するTVerは、アプリやブラウザだけでなく、テレビからも見られる。またYouTubeやNetflixを広いリビングルームのテレビで見ることは、海外でも日本でも珍しくない。
そもそもテレビはデジタルであり、テレビとインターネットの境界線が良い意味で崩れているのだ。すると、比較軸はテレビとYouTube、テレビとTVerといったものだけではなく、多様化する。モバイルとテレビでYouTubeの人気コンテンツに違いはあるか? また、テレビから地上波コンテンツとYouTubeを見たとき、動画視聴意向の相乗効果はあるだろうか? など、「どんなコンテンツが、誰にどのデバイスで見られているか」の切り口が、生活者の視聴態度の違いや広告効果を見るポイントになる。これが、郡谷氏の考えだ。
またテレビには、独自の価値がある。テレビは、誰かと一緒に見るマルチパーソンデバイスであり、共視聴から複数人へのアプローチが望める。在宅時間が増えたことにより、家族でテレビを見る機会が新しく生まれると、視聴質にも変化が起きるだろう。郡谷氏は、「テレビには、様々な評価軸で見ると新たな価値がある。生活者の行動が変わっているのに、地上波の視聴率だけを追うことが重要でしょうか」と問いかけた。また、米国ではブランドセーフティの観点から、テレビが再評価されていることにも触れた。
テレビの新たな価値を見つけ、再定義するのはデータである。近年では、地方局の視聴関連データも増えた。金井氏も「地方局のデータは、マーケティング観点で歓迎。ローカルのテレビ影響は大きく、柔軟な番組タイアップ等も可能性がある」と期待を寄せる。郡谷氏も引き続き、データで様々な変化を読み解き、マーケターの意思決定の質をサポートしたいと語った。
「これからのテレビ活用は、視聴デバイス×コンテンツ×利用導線を緻密に設計した上で、目的に応じて利用を組み込んでいくことがより重要になる。まだまだ手探りですが、業界のみなさんと一緒に考えながら、マーケティングを進化させていきたいです」(金井氏)。