デジタルクリエイティブにテクノロジーの有無は関係ない
――では、米が考えるエグゼキューション・カンパニーとしての事例を教えてください。
まず、ジョンマスターオーガニックというオーガニックヘアケアブランドの事例をご紹介します。同ブランドでは、2020年に商品のリリースに合わせ新しくブランドの姿勢を示すということで、我々は「I’MNONFICTION」というブランディングのお手伝いをしました。著名人をアサインするのではなく、自分に嘘をつかずスタンスを明確にしている人を起用し、Webサイトや動画コンテンツによってブランドの新たな顔を表現しました。

次は、メルカリとナチュラルローソンが実施した「読むレジ袋」です。この企画は、モノの価値を伝えるプロジェクトの一環で、身の回りのものに価値があることに気づいてもらうために行いました。通常、レジ袋はモノを運ぶだけのもので捨てられてしまう運命でしたが、そこに小説を印刷して価値を付加することで、モノの価値を問いかけました。これにより「読むレジ袋」をきっかけに多くの議論がSNS上だけではなく、情報番組や報道番組など様々なところで生まれました。

そして、最後にご紹介するのはNHKのウィズコロナ・プロジェクト「みんなでエール」です。年間で使用するキャンペーンロゴや特番のロゴ、オープニング映像、テロップなどを制作しています。

――デジタル上のコンテンツからレジ袋、番組映像まで幅広く企画を立案、実現しているんですね。
これらの企画すべての前提としてあるのが、アウトプットをインターネット上の文脈と世の中の流れを汲んだものにするという思いです。長年デジタルクリエイティブに関わっていると、派手だったり新しかったりするテクノロジーを駆使した企画に携わることもありました。しかし、それよりも「知ってもらうのか」「ブランドを育てるのか」など目的が重要で、テクノロジーの有無はどうでもいいことだと考えています。
インターネット上の様々な会話が大きなヒントに
――インターネット上の文脈や世の中の流れを汲むとのことですが、どのようにしてそれらを把握されていますか。
インターネット上で出現する様々な会話を見て、いち早くトレンドを察知し、それを大切に企画やアウトプットのディレクションを進めています。この様々な会話を読み解くと、世の中の人たちの間にあるインサイトやストーリーが見えてきます。この潜在的な人の欲望や文脈をあぶり出し、課題解決につながる適切なクオリティのコミュニケーションを提案しています。
――適切なクオリティというのが気になりました。最高なものを目指すわけではないのでしょうか?
クリエイティブの話になると「とにかくかっこいい、美しいものを」と考えがちですが、たとえば和菓子屋さんが突然超有名スポーツブランドみたいにかっこいいクリエイティブを展開したら違和感がありますよね。そのため、ブランドが持っているスタンスや価値に合ったクオリティのクリエイティブを提供することが重要だと考えています。