すべてのマーケットからWHOを考える
しかし、ブランドのマーケターたるもの、WHOは自明ではないだろうか。ウェビナー参加者からも、同様の意見が相次いだ。しかし長氏は、「本当にそうでしょうか?」と疑問視する。そして、WHOを決める2ステップを紹介した。
まずステップ1は、「TAM」「SAM」「SOM」の概念を用いる。TAMとは、Total Addressable Marketの略で、事業の最終的な規模を意味する。そのうち、メインカテゴリー全体がSAM(Serviceable Available Market)で、自社のシェアがSOM(Share Of Market)だ。たとえば、プロテインブランドだったら、プロテインカテゴリー全体がSAMで、自社のシェアがSOMになる。

ここで重要なのは、TAMの範囲だ。自明の視点で考えてしまうと、対象のマーケットを、トレーニングやスポーツ関連だけに留めてしまいがちだ。体力作りに関心があるシニアマーケットや、ヘルスケアマーケットも対象になるかもしれない。自社のサービスやブランドが、最終的にどのくらいの顧客を引き込みたいのか、また引き込めるポテンシャルがあるのかを、すべてのマーケットカテゴリーで考えることが求められる。
そして、ステップ2には、9segsでWHOを分解することが挙げられた。「事業成長のポテンシャルを見るのと同時に、具体的なアクションに押し込めるくらい、WHOを分解しましょう」と長氏。
「WHOは男性で、人口の半分」では解像度が荒く、同時に自身の経験値や想像で数ページにわたる「40代男性で、週3回筋トレをしていて……」のような詳細なペルソナでは、代表性が薄い。セグメントごとに1人の顧客をインタビューして理解する、N1分析が効果的だが、詳しくは、西口氏の著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)を参考されたい。
WHOとWHATの組み合わせがHOWを生む
続いて西口氏が、WHATを解説する。WHATとは、商品やサービスが持つベネフィットだが、WHOとWHATの間に順番の優位性はないことを理解しよう。
たとえばiPhoneの成功は、iPhoneのWHATを好む人達が増えていった結果、WHOが見えてきた事例だ。一方、西口氏が支援するクライアントの1つ、製菓・製パン材料を扱うECサイト「cotta」(株式会社TUKURU)は、WHOからWHATが明らかになった例だ。
同社の顧客を9segsで分析したところ、驚くことに積極・認知未購買顧客が多かった。そこで、「手作りに関心があるけれど、何をしたらいいのかわからないのでは?」と仮説を立て、簡単なお菓子作りの材料キットを無料で配布した。結果、コロナ禍のステイホーム消費も追い風となったのか、大きな反響が生まれ、新規注文件数が前年比10倍に跳ね上がったという。2つの事例からは、WHOとWHATが、互いに関連し合っているとわかる。
その上で、WHATはWHOに合わせて設定していく。架空のスキンケアブランドを例に、考えてみよう。

図からわかるように、2つのセグメントのWHO、4つのWHATだけで、8つの組み合わせが考えられる。ここから、効果の高い組み合わせを見つけていくのだが、「1つのWHATをすべてのWHOに提供する間違いが多い」と長氏。だからこそ、「誰に何を伝えるかを明確にした、顧客戦略が必要だ」と改めて主張した。
WHOとWHATの組み合わせが決まると、おのずとHOWは決まっていく。
たとえば、図表の認知・未利用顧客(WHO)に、「20代前半の透明感をすぐに実感(WHAT)」を組み合わせたとき、「20代女性が接触する美容に強い媒体やスキンケアに興味のある20代に人気のあるインフルエンサーは誰か?」とスムーズに考えられるだろう。また、未利用顧客に「透明感をすぐに実感」してもらうには「2週間のトライアルキットはどうだろう?」といった施策も浮かびやすい。
「WHOとWHATの正しい組み合わせは、おのずとHOWを導いてくれます。繰り返しますが、まず大事なのは、WHO。そして、その人たちに対してどういったWHATが組み合わせられるか。その後に、HOWを考える順番が理想です」(長氏)