“定量風”をなくし、正しい「定量文化」を作る
続く4つ目の工夫は、定量評価の文化を作ることだ。ここで塩見氏は「“定量風”に惑わされないように」と釘を刺す。たとえば、登壇イベントの5段階フィードバックがあったとき、「4と5を選んだ人が90%」と表すのは「定量風」だ。塩見氏の言う「定量」とは、全体スコアの平均点を出し、さらに4と5の割合まで落とし込み、判断することだ。

定量化を繰り返していくと、その相場観が掴め、「0.1の差をも埋める改善ができるか?」の視点を持った行動に繋がってくる。塩見氏は、自らの発信にこうした数字への徹底的なこだわりをにじませることで定量評価の文化醸成を図った。「定量評価の文化が根付くと、数字のパワーが増し、元来数字が好物のデジタルマーケターの原動力になります。すると“あの施策は112.3%も改善したらしい。まねしてみよう”というように、数字が出回れば自然と知見は広まっていくのではと考えました」と塩見氏は話す。
そして5つ目の工夫は、塩見氏自らが、コンテンツ開発に「命をかけた」ことだ。このコンテンツとは、社内外の勉強会やイベントなどの、情報発信や知見共有の場を意味する。直近では、オンラインによる商談や面接を先行的に進める部署の事例を、ウェビナーでシェアしたという。また、失敗例の発信には、「しくじり共有会」を発足。「“誰が一番大きな失敗をしたか”がテーマ。うまくいった事例よりも、失敗した事例のほうが参考にしやすいんです」と、ユーモアも交えて失敗をオープンにできる場を作った。
さらに、プロダクトデザインの組織では、事例や知見をシェアするポータルサイトや動画が自発的に作られたそうだ。「おもしろいコンテンツは最強」と強調する塩見氏。「おもしろい本音を聞くことで、次も聞きたい、自分も発信したいと感じさせるサイクル作りが重要」と語った。
データドリブン人事でマーケターのキャリアをより魅力的に
これらの取り組みの結果、人材流通も大きく改善している。マーケターが各事業会社のみに所属していた時代では、担当事業のSEOをやり、次はCRM、広告・・・…と、あくまで事業軸内でのキャリア構築しかできなかった。しかし、横串のマーケティング室がある今は、「担当事業を変えながらSEOを極める」のように、スペシャリストも目指せる。もちろん、従来通りにジェネラリストを目指すことも可能だ。マーケターのキャリア選択が広がることで、「やりたいこと」を優先するリクルートの「Will最優先配属」がより活発になったという。

また、予想もしていなかったメリットも生まれた。マーケティング室に200人規模のマーケターが集まり、キャリア分析のサンプルが増え、データドリブン人事が可能になったのだ。どのようなキャリアを持つ人材をアサインすべきか? や、育成方法、マネージャーとの相性などのキャリアにまつわる課題を、データ分析できるようになったことは大きい。「人事評価や配属も、勘や知恵ではなく、“なるべくデータで判断する”を目指しています」と塩見氏は展望を語る。