ECに足りないものは「偶発的消費」
――はじめに、吉澤さんとawoo Japan(アウー ジャパン)の紹介をお願いします。
吉澤:マーケティング業界には2010年頃から足を踏み入れ、外資系マーケティングオートメーションベンダーに入社して日本のMAツール黎明期からプロダクトマーケティングに従事していました。その後独立し、国内外のSaaS企業の事業コンサルをした後、ReproでCBDOを務め、2020年8月からawoo Japanに参画しました。
awooは2015年に台湾でSEO関連のベンチャーとして誕生し、今年8月に日本市場に本格参入しました。本社も日本に移し、本腰を入れてビジネスを拡大していく計画です。当社が提供する「nununi(ヌヌニ)」は、人工知能を用いて自動化をさせつつサイト全体のパフォーマンスを向上するという、今までの日本のMarTechにはないサービスになっています。
――御社が提供するnununiの根底には、“偶発的消費”という発想があるとお聞きしました。これについて教えていただけますか。
吉澤:現在多くのEC事業者が向き合っている課題は、楽しく買い物してもらう体験をオンラインでも作るということです。特にコロナ禍でリアル店舗が利用しづらい状況の中、オフラインと同じような体験をオンラインで提供する必要性はさらに高まっています。
買い物によって得られるワクワク感。これを生むためのポイントは大きく2つあると考えています。ひとつは、並んでいる様々な商品からどれがいいか見て回る「回遊性」ですが、ECの構造はそれがしにくくなっているのが現状です。
たとえば、多くのお客様は「そろそろ秋服が欲しい」「旅行に着ていく服を探したい」など、ふわっとしたニーズでサイトに訪れるのに、サイト側には「トップス」「ワンピース」など、商品カテゴリーやブランド名を中心に探す設計となっていて、ニーズに十分に応えられる構造になっていません。本当に求められているのは、その人の購買動機を把握し、それに合った商品をカテゴリーをまたいで提案できるような構造です。
――なるほど。もうひとつのポイントも教えてください。
吉澤:もうひとつの観点は、偶然の出会いの提供です。これがまさしく「nununi」が提供する機能のコンセプトとして私が掲げている「偶発的消費」で、思いがけないものを発見する体験を指します。日本にサービスを展開するにあたって、たくさんの業界関係者に今抱えているEコマースの課題についてヒアリングをしたのですが、その中で得た答えでもあります。
そもそも日本のEC業界において、偶発的消費を誘発するソリューションはあまり提供されていません。最近、ライブ配信をしながらリアルタイムに商品を売るライブコマースに挑戦する事業者が増えているのも、その根底に、デジタル上でもワクワク感を提供したい思いがあるからだと考えています。
nununiで偶発的消費を起こすメリットとしては、欲しい商品を探してもらいやすくなるほかに、ランキング的に売れ筋ではなかったり、注目されにくい商品も見つけてもらいやすくなるなどが挙げられます。
AIがマイクロニーズに合わせたタグを自動生成
――nununiでは、どのように偶発的消費を生み出すのでしょうか。
吉澤:AIが商品の説明文などから特徴を理解し、一つひとつの商品に対して自動でタグ付けします。生成したタグをクリックすると、そのキーワードに一致するサイト内の商品が集約され、自動でLPを生成します。ユーザーはタグをクリックしていくだけで、自分が欲しいと思う商品を簡単に探せるようになります。
吉澤:つまりユーザーのマイクロニーズを起点としたストレスフリーな検索体験が、nununiの特徴です。商品を探していく中で「これいいな」と自ら気づき、能動的なアクションに基づいて買い回りをしていく。これは、セレンディピティそのものです。
セレンディピティを起こすには、(1)アクション(行動)、(2)アウェアネス(気づき)、(3)アクセプタンス(受容)の要素が必要になると言われています。nununiでも自ら行動を起こしてもらうことを重視して、SNSでも広く使われているテキストタグの形式を採用しました。
――ユニークな発想とそれを支えるAI技術が揃ったからこそ、生まれたソリューションなのですね。
吉澤:はい。awooが事業をスタートした台湾は、人工知能大国を目指し、多数のメガIT企業のAI研究所を誘致して投資していますし、優秀な科学者もたくさんいます。awooでもAI科学者15人ほどでラボを作っていて、マーケティングにどうAIを活用できるかという議論を活発に行ってきました。nununiのコンセプトも、その中で発見した経緯があるんです。
ふわっとしたニーズを逃さず、CVR3倍、離脱率70%減を達成
――では、実際にnununiを導入している企業の事例をご紹介いただけますか。
吉澤:台湾では台湾版「楽天市場」、日本では「ギズモード・ジャパン」「ルーミー」などメディアへの導入実績もあります。
中でも、JAMSHOPPING様が運営する日本最大のロック&エンターテイメント公式商品グッズ・ストア「PGS」にnununiを導入いただいたところ、大きな成果が上がりました。
導入のきっかけは、事業が成長するにつれ商品点数が多くなり、2万点を超えたことで、サイト内の商品が探しにくくなり、顧客体験に課題を感じられていたことです。商品を探しやすく、かつCVRを改善できるようなソリューションを探していたところ、nununiに関する記事をご覧いただき、お問い合わせいただきました。
nununiで生成されるタグは、たとえば「クイーン Tシャツ」というように、バンド名とアイテムなどを組み合わせた複数のキーワードから構成されていて、かつ「クイーン アルバム」「クイーン ギター」など、類似のキーワードが多数表示されます。JAMSHOPPING様には、商品そのものではなく、その商品がもつ「特徴」ベースでユーザーが買い物を楽しめる点を評価いただきました。
ECサイトには「クイーンのTシャツ」を探しているユーザーだけでなく、「クイーンのグッズでよさそうなもの」「ロック系のTシャツ」といった、ふわっとしたニーズをもったユーザーも多く訪れます。そうしたキーワードをタグにしてクリックしてもらい、関連商品をランディングページに集約することで、偶発的消費が生まれる仕組みです。
吉澤:導入時には、サイト内エンゲージメント向上と売上の改善をゴールに、まずは特定のカテゴリーに絞ってトライアルいただいたところ、nununi経由のユーザーと経由していないユーザーとで大きく違いが生じました。
具体的には、nununiを経由したユーザーのCVRは全体平均よりも3倍高く、離脱率は70%以上の改善が見られました。滞在時間も4倍になるなど、検証期間において優れたパフォーマンスが見られたため、現在は全カテゴリーに導入いただいています。
――なぜここまで高い成果が出せたのだと思われますか。
吉澤:nununiの人工知能の精度はもちろんのことですが、JAMSHOPPING様と当社のCSチームが相互にコミュニケーションを取りながら、改善のサイクルを回せたことも大きいです。トライアルから本格稼働へと移る際に、タグの表示方法やクリエイティブなどのUIを改善したのですが、そうした工夫もあって、nununiによる売上貢献度を14%にまで引き上げることができました。
一方、導入後の運用は自動化できるところがnununiの強みです。nununiが生まれた台湾では、ECの構築や運用を事業者自ら行うことが多いため、負担なく活用できる設計を目指してきました。
SEO、ROASへの貢献も!台湾で磨かれた自動化技術
――nununiの運用自動化技術について教えてください。具体的にどのような負担が軽減されるのでしょうか。
吉澤:運用自動化のポイントも、やはり人工知能にあります。商品へのタグの付与はいまだに担当者が手作業で行っている場合が多いですが、膨大な時間がかかる上に、担当者が変わると判断にばらつきが出てしまうこともあります。
人工知能に任せれば、工数が減るだけでなくデータに基づいた判断を行うため、バイアスがかかりませんし、学習を繰り返してずっと使えるというメリットもあります。
また、nununiの人工知能を使って生成されたマイクロニーズタグは、ECサイトの広範囲にわたって活かせるものです。たとえば検索エンジンフレンドリーなランディングページも自動生成が可能で、SEOトラフィック増加に貢献します。通常は、生成したキーワードをSEOに強いワードにチューニングしていく処理のために、SEOのコンサル会社に依頼してどのようなキーワードがあるか調べ、検証していく労力が発生しますが、それを丸ごとAIに任せられるわけです。これによって新規顧客の獲得増加も期待ができます。
吉澤:SEOやサイト内の改善以外にも、FacebookやGoogleの広告にも活用でき、ROASの改善にもつながります。台湾ではROASを7倍以上成長させた例がたくさん出ています。
吉澤:また当社はメールやLINEの配信プラットフォームも持っており、そこにもAI技術が搭載されていて、タグをベースにセグメント配信を行うのはもちろんのこと、コンテンツの作成から配信時間のパーソナライズ化まで、人工知能が自動的に行います。顧客獲得から顧客転換、顧客維持まで、トータルでECを底上げできるソリューションとして幅広くご活用いただけます。
――最後に、御社の今後の展望をお聞かせください。
吉澤:自動化できるところはとことん自動化を追求し、かつしっかり「顧客理解」のための有益なアウトプットまでできる仕組みをnununiで実現したいと考えています。
今のマーケターはオペレーション業務が多すぎると思っています。私は長年MAツールに携わっていましたが、オートメーションと名乗っているのにいまだにオペレーションの負荷が高く、全然オートメーションになっていない。本当の意味で自動化を目指すなら、もっと人工知能を使っていくべきというのが私の持論です。
吉澤:それによって空いたリソースを、ブランド体験やファン作り、コミュニケーション設計など本来のマーケターの役割に時間を使ってほしい。nununiを通じてそのような支援をしていきたいですね。
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