技法2:「在庫コスト」をマーケティングとして考える
旧来の店舗販売では、在庫上でのコストは商品に紐づく直接コストであったが、この考えをAmazonが書き換えている。Amazon Primeの一般化のおかげで、生活者は購入した商品が2日、あるいは1日以内に届く心理基準になった。今や新規で立ち上がるECブランド(企業)は、在庫(配送)こそが収益を大きく上下させるため、「マーケティング管轄」として計上している事実がある。
たとえば同日配送が提供できれば、ブランドコミットやコンバージョンが上昇したり、買い物バスケットへの投入金額の上昇が期待できる。今や1時間単位での配送の能力差は、DXよりも気にされる(必須の)マーケティング「トリガー」である。
技法3:Amazonのソーシャル化
Amazonサイト内のレビュープログラム「Amazon Vine先取りプログラム」も米国では大きく躍進している。Amazon認定のトップレビュアー(Vineメンバー)へ出品者が商品やサンプルを無料で提供し、商品レビューを投稿してもらえるプログラムだ。Amazon認定制なので、違法に「レビューを買う」というような行為も発生しない。
ブランド企業はこれまでAmazon「広告」プラットフォームに販売促進費用を投下していたが、Vineメンバーのレビューによるブランディングの影響度を計算する必要がある。
GoogleやFacebook等のソーシャル上での設定は「広告」に閉じているのに対して、Amazonはサイト内での「広告」に加えて、AIを経由してファネル下部の「物流網」と垂直連動させ、ブランディングに寄与する「新」マーケティングを実践している。それが次の4つ目の技法だ。
技法4:三方良しをAIで実現する
Amazon流のマーケティングAIとは、単なるAWS上でのファネル上部のメディア効率化やサイト販売の効率化だけでは終わらない。この入り口から入った大量のクエリを起点に、ファネル下部での「お宅」に向けて、在庫と販売経路を自動的に最小・最短化させる。消費者にとって「すぐに」「安く」品物が届く状態を実現し、セラー側には「手間がない」「利益幅が自動で高まる」を提供し、Amazon自社を含めて三方良しの利益最大化を、我々が「知らぬ間に」実現させている。
たとえば数年前までメーカー側は、Amazonが指定するカテゴリー別のFC拠点への納品に「従順」する手間があった。ところが現在では身近なAmazonのFCに一括納品した後は、AmazonがAIによる最短、最小コストに向けて自動で配置替えを行う。メーカー側は自社商品の何個がどこで管理されて、どこからどの地域に配送されているのかさえ、把握する必要がなくなってしまった。おかげでメーカーは自社サイトや販路で売れるよりも、Amazon経由で売り上げたほうが、メーカーにとっての利益幅が大きいという現象も起きている。Amazonの「即日配送」の裏側には、単なるAIの計算だけでなく、組織そのものが機械学習を行う「マーケティング生命体」かのように、新概念を続々と生み出している。