「インスタ映え」の定義は5年で大きく変化
長田:2017年には「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれましたが、若者が好む“映え”の形もここ5年で大きく変化しましたね。
2017年頃までは、大きな羽が描かれた壁のような、用意されているフォトスポットなどで写真を撮り、1枚の写真を作品のように作り込むのが一般的でしたが、現在はがんばりすぎない、自然“風”な自分を見せることが“映え”となってきています。

右:2020年の映え写真
長田:写真だけが映えているのではなく、生活そのもの、ひいては自分の人生そのものが映えて見えることが理想になってきているのではないでしょうか。
「インスタ映え」に対する意識は変わらずありますが、あからさまな“映え”から、日常を感じさせる自然なものへ、見せ方が変化していきました。
たとえば、レインボーカラーのケーキなどは現在好まれる“インスタ映え”とはまったく異なります。現在は、生活の一部をそのまま切り取ったような写真が人気です。

崔:SNOWでは2018年〜2019年頃、フィルムカメラやVHSのような雰囲気を再現するアナログフィルターが流行していました。
“映え”のトレンドと同じように、人工的に整え、完璧に仕上げるよりも、ラフで“エモい(エモーショナルな)”空気感やニュアンスを演出するのが人気です。

長田:「Instagramの写真をエモい雰囲気で統一したい」など、「投稿のテイストをそろえたい」といった話は2018年頃からよく聞くようになりました。
自己満足の部分はもちろんあると思いますが、フィード投稿が自己紹介的な役割を果たしている彼女たちのInstagramアカウントでは、自分のページにある画像の雰囲気がきちんとそろっていて、「こういう雰囲気が好き」と周りに伝えられるのは、重要なことだと言えます。
崔:「エモい」は、最近人気トレンドとしてさらにバージョンアップしてますね。「エモさ」の範囲も広がっており、エモいイメージのフィルターは新しいものがたくさんできています。

【2015~2020年 若者トレンドのポイント】・「インスタ映え」の定義が変化。現在はラフで自然な“がんばりすぎない”トーンが主流
・ビジュアルコミュニケーションでは、全体の空気感やニュアンスが重要
・Instagramのフィード投稿の雰囲気がそのまま自己紹介にもつながるため、投稿テイストが統一されるよう気を付けている
“映え”の変化の背景にあるのは、Instagramのあのアップデート
長田:写真を使ったSNS上のコミュニケーションだけではなく、動画を使ったコミュニケーションもすごく増えましたね。

長田:音楽に合わせて口パクをしたり踊ったりする動画も主流になりました。エンタメ系の動画アプリは、元々あるテンプレートを利用し、サービスの空気に合わせて動画を楽しむのが基本的なスタイルですね。
崔:そんな動画コンテンツの流れに大きな変化を生んだのが、2016年のInstagramのアップデート「ストーリーズ機能の追加」だと思っています。
遊び・おもしろ路線がメインで、編集スキルがないと発信しにくかった従来の動画コンテンツに対し、ストーリーズはまったく別路線の「日常を気軽にそのまま表現する動画」として地位を得ました。
長田:Instagramにあげる写真に関しても、2015年当初は作り込んだ完成度の高い写真がメインでしたが、ストーリーズ機能が定着していくにつれて、自分たちの日常をどう自然に魅力的に切り取るかというところへ、少しずつ主軸が移っていったように思います。
この流れが、先ほど話した「インスタ映え」の変化の背景になっているのではないでしょうか。

崔:Instagramストーリーズは、動画をあげても24時間で消えるのが特徴。作り込まずに日常を表現するのに向いた仕組みになっています。
長田:日常を切り取るといえば、最近では「Vlog」と呼ばれる日常生活の様子を見せる動画のスタイルがYouTubeで人気ですよね。
崔:アメリカでは2013年頃にVlogが流行し、YouTuberたちが日常を発信し始めました。日本でも、お金をかけた企画コンテンツから、肩の力を抜いて気軽に発信するVlogに、投稿者側のトレンドが流れていっているのではないかと思います。
長田:確かにそうかもしれません。一般ユーザーの視聴態度も、コンテンツに集中して向き合うのではなく、流し見をするように変化していますしね。
崔:それはありますよね。これまでは一般の人たちが動画を編集し投稿するハードルは高く、投稿する人よりも閲覧する人が圧倒的に多かったのですが、最近は動画編集が簡単にできるアプリが増え、一般ユーザーによるコンテンツ制作も発展しています。
SNOW Japanでも、そういったニーズを意識し、ビデオ編集アプリ「VITA」を展開しています。VITAは、写真を選ぶだけで動画を作成できるテンプレート機能に特化しているため、普通に動画を編集するよりもハードルが低く、誰でも簡単に作成できるようになっています。
先日は、スタジオアルタとのコラボレーションで、新宿の大型ビジョン「アルタビジョン」のテンプレートをVITA内で提供したところ、約1万人のユーザーに使用して頂きました。
長田:そんな取り組みも行っているのですね。これから日本で一般ユーザーによるVlogコンテンツの制作・投稿は、さらに加速していきそうですね。
【2015~2020年 若者トレンドのポイント】・Instagramストーリーズの登場により、日常を気軽に動画で表現するように変化
・日常を切り取るストーリーズが若者の「映え」の定義の変化に影響をもたらした
・動画編集アプリの発展により、簡単に動画コンテンツを作れる一般ユーザーが増えている