売上だけではない、“ファン共創”が持つ力
徳力:おもしろいですね。売上販促の効果についてはどう考えてらっしゃいますか? マス広告を打って大きな棚にずらっと並べて……といった販売戦略と、ファンとの共創マーケティングはだいぶ位置付けも規模も違うと思います。実際はどのように考えられているのですか?
福原:難しいですね。販売する上では、共創したからといって売上が全然違いました、ということではもちろんありません。ただ、ファンと作ったから買ってみようとか、“ファン共創“というワードがフックになっている部分は間違いなくあります。
応援部に参加した方がSNSに「私達が携わった商品が売り場にたくさん積んであるのを見て、感慨深い気持ちになった」というような投稿をしてくださいまして。これはこういう活動をしていたからこそお客様に味わっていただけた、唯一無二の価値だとも感じています。これはお金に換算できることを超越したレベルで大切なことですよね。
徳力:ファンとの共創は、投資対効果などの金額換算ではなく、企業活動のコミュニケーションのひとつとして位置づけられているのですね。
開発から反発はない? ファン共創におけるQ&A
徳力:最後に、参加者のみなさまから事前にいただいた質問をご紹介します。
Q1.『堅あげポテト』の案は、いつもどのくらいの応募が集まるのでしょうか。
福原:どの媒体でどこまで募集を発信するかで集まる数は変わってきますが、「梅かつお」のときで700くらい、その前は1,200くらいの案が集まりました。集まった案は、「醤油系」「酸っぱい系」「辛い系」のようにまずは味で分類したうえで集計し、そこから社内の検討をしていきます。
投稿の内容は、『堅あげポテト』で実現可能性がありそうな、真面目なアイデアが多いです。たまにネタっぽいものもあるのですが、でもみなさん本当に食べたい味を本気で投稿されていると思います。
Q2.わたしも菓子会社に勤務しています。開発とマーケは仲が良くないのですが、顧客からの声を開発に渡すと開発から反発はありませんか?
福原:弊社ではありませんね。応援部の立ち上げのときに開発の意図がどれくらい入っていたかというのは把握しきれてはいませんが、先ほどのお客様の声を聞く時間などもあり、傾聴をする姿勢は全社員の心にあると感じています。
それから、この共創プロジェクトでも、イベント時に開発担当者にグループワークに入っていただいてお客様とコミュニケーションをとってもらっていますが、楽しんで参加してくれていると思います。
Q3.応援部を作ってるのは『堅あげポテト』だけでしょうか? またなぜ『堅あげポテト』ではこうした取り組みが実践できたのでしょうか?
福原:先例はいくつかありました。『じゃがりこ』『フルグラ(シリアル)』などです。
徳力:この質問では、うちでは反対があってできない、ということもあるのではないかと思います。他の会社さんが商品開発の企画をトライしてみたいなと思っているとしたら、何から始めるのがいいと思われますか?
福原:もしもできるなら、お客様の生の声を共有する場を設けて、「商品の向こう側には一人の人間としてのお客様が存在する」ということを皆さんが強く実感できるのがいいかなと思います。
前職ではその意識があまり強くなかった私も、カルビーに中途入社して初めて「これおいしかったよ」と電話してくださったおばあちゃんの生の声を聞いたとき、お客様が生活の中でどのような気持ちで商品を召し上がってくれているのかを強く実感することができました。そういう意識が全社に広がるのが大事かなと思います。
徳力:おもしろいですね。ローソンのTwitterの中の人も、まだ社内で無名だった時代から、新商品が出たときに帰ってくるフィードバックを各商品部署にエクセルで共有していたそうです。そうすると、ポジティブなフィードバックをもらったことなかった商品開発の人が、どんどんそういう話を聞きに来るようになったらしいんです。
カルビーさんの場合それを音声でやってるわけですよね。当然クレームも共有されてると思うんですけど。確かにそれはちょっと担当者からすると鳥肌モノですよね。
Q4.ファンと共創して商品を開発する際に、成功と失敗の分かれ道は?
福原:成功失敗ということについては、売上というよりもブランドの価値に沿ったものを提供できているかというのがポイントになります。
そして、お客様の声を反映させるのはもちろんですが、ブランドのレギュレーションやこちらの開発意図、タイミングも大切です。また、味が突飛すぎると売れないので少し定番感がないと4ヵ月は売り切れない、というようなメーカーとしての意図もしっかり持った上で、選択肢や課題をファンのみなさんに提供して、その中で自由に考えていただくのが、大事かなと。
徳力:考えてもらう枠作りは綿密に行うイメージですね。では失敗することはそのコミュニケーションが失敗したケース?
福原:実は「梅かつお味」の前に「海老しお味」を作りましたが、「じんわりやさしい海老の味わい」というキャッチコピーとそれに沿った味わいなのに対し、パッケージは海老の写真を大胆に配置したため、パッケージと中身にギャップが出てしまいました。全体の一貫性をもたせたり、ファンの方にいただいたご意見を商品に落とし込む段階ではきちんとケアするというのが、共創で大事なことなのかなと個人的には思っています。
徳力:あえて失敗談に近いお話をお聞かせくださりありがとうございます。そういった経験からも、次の成功につなげるというサイクルになってるのかなとも感じます。
Q5.社内共有のための最初の一歩としてお客様の声を共有するというお話がありましたが、他社でも、明日からやれそうなことがあれば、教えていただけますか。
福原:TwitterやInstagramで自分が担当しているブランドのことをポジネガに関わらず常日頃からチェックしておくことが大事ですね。SNSを見るのがいちばん生の声を聞けるのかなとは思います。
徳力:ネガティブな投稿が出てくると必要以上に凹んじゃう人が多い気がしますが、そこらへんは大丈夫でしたか?
福原:ぼくもめちゃくちゃ凹んじゃうタイプです(笑)。でも、もう一旦受け止めるしかないと割り切っています。最後にポジティブな意見を見てエゴサーチを終えるみたいな。
徳力:工夫されながら続けているんですね。本日は本当にありがとうございました。