テレビCMによって得られた成果は?
MZ:テレビCMを出稿したことで得られた成果はありますか?
猿渡:テレビCMを出稿する前から好調ではありましたが、出稿期間のAmazonでの売れ筋ランキングでは割引などをせずに1位をキープできていました。また、定性的なところではTwitterなどでもポジティブなコメントを寄せていただいていて、私個人のTwitterアカウントでテレビCMの動画を載せた際も多くの反応が集まりました。詳細な結果に関しては、現在広告代理店の方と一緒に検証を進めている段階です。

また、他国のマーケティングチームから「いい動画だからうちでも使わせてほしい」という声も上がってきたのはうれしかったですね。通常外資企業だと本国から共有されたクリエイティブをローカライズして発信していくのが一般的ですが、Ankerグループでは日本法人であるアンカー・ジャパンが裁量権を持って日本独自の施策を仕掛けることがほとんどです。そのため、今回のようなおもしろい事例が作れたのではないかと考えています。
メッセージ起点でクリエイティブを作る
MZ:今回の施策を通じて得られた学びはありますか。
猿渡:オフラインでの売上もテレビCMがスタートする前から好調だったので、まだ明確な相関が出せていないものの、販売チャネルを広げながらコミュニケーションにきちんと投資すると売上が付いてくることが今回の取り組みでわかりました。
また、今回のように大きな金額の投資をすることで、セールスも流通向けに棚取りの提案がしやすくなるなどの副次的な効果も見られたのは勉強になりました。
そして、日本のテレビCMの場合有名人を起用するケースが多い中で、あえて起用せずにいいクリエイティブを作ることができたのは今後の知見になったと思います。
MZ:いいクリエイティブを作れたとのことですが、いいクリエイティブを作るには何が必要なのでしょうか。
猿渡:まず伝えたいメッセージを明確にすることですね。かっこいいものを、話題になるものを、とクリエイティブの中身から入ってしまうと本質的に伝えたいことがずれる、もしくは十分に伝わらない可能性があります。シンプルでかっこいいテレビCMがハマる企業は、そもそものプロダクトとサービスが素晴らしくて、そこにトンマナを合わせた結果、かっこいいクリエイティブになっているはずです。
そのため、何が訴求したいのかを棚卸しして、それを最大限表現する方法を徹底的に考えるということが重要です。我々も水を落とすスピードやお湯の色、急速充電のセリフなど細部までこだわり、合理的な視点をもってクリエイティブを詰めていきました。伝えたいメッセージが明確だったからこそ、軸をぶらさずに洗練していけたのだと思っています。
今後も販売チャネルの拡充と新規層のアプローチを強化
MZ:今後のAnkerブランドのマーケティングにおける展望を教えてください。
猿渡:今回のテレビCMを通じて、「急速充電と言えばAnker」という認知を広げることができましたが、まだまだ訴求できる層はいると思うので、より幅広い層にアプローチしていきたいです。
また、購入できる場所をオンライン・オフラインともに広げていき、お客様が買いたい場所にAnkerがある状態を作っていきたいです。そして、ただあるだけでは他の製品に埋もれてしまうので什器や売り場への投資も行い、店舗単位での売上も拡大していきたいです。
MZ:今回のテレビCMは10日間のみの配信でしたが、今後も制作したクリエイティブは活用していくのでしょうか。
猿渡:今回のテレビCMは制作費をきちんとかけて作ったので、今後もYouTubeなどのクリエイティブとしても使っていきたいと考えています。また、Ankerグループには完全ワイヤレスイヤホンやスピーカーなどのオーディオ機器を扱うブランドもあるので、毎月積極的にテレビCMを出稿していくというよりは、まずセールスを継続強化して土台を整えつつ、バランスを見ながら出稿すべきタイミングが来ればまた検討したいと考えています。
MZ: D2Cを軸にしたブランドがキャズムの谷を越える上でテレビCMは欠かせないものになりつつある印象です。その中で、アンカー・ジャパンの事例は非常に参考になるのではないでしょうか。猿渡さん、ありがとうございました。