言葉をデータで定義することの重要性が増している
GoogleによるサードパーティーCookieの廃止、iPhoneの広告識別コードの制限導入など、マーケティングや広告へのデータ活用に対する規制が強化される状況の訪れに、どう対処していくべきか悩んでいるマーケターの方も少なくないだろう。
そうした中で、テーマにあるように顧客を正確に「知り」、適切なオーディエンスに適切なメッセージを届けていくためにはどうしたらいいのか。これに対し、データ分析を専門とした事業を展開するデータサイエンティスト集団、DATUM STUDIOでマーケティング戦略部ディレクターを務めながら、Supershipではデータコンサル室長という二足の草鞋を履く市川真樹氏と、セールスフォース・ドットコムのエバンジェリストである熊村剛輔氏は、それぞれの経験や知見から考えを交わし合った。
セッションで一貫して重要なポイントとして取り上げられたのが、「言葉をデータで定義する」ということ。なぜそれが大事なのか、これにはいくつかの理由が挙げられた。
1つは、社内で「共通言語」としての役割を果たす点だ。マーケティングを実行する上で様々な部署が関わるようになった際に、共通言語での会話ができないことが障壁になる場合がある。
「Webサイトのアクセス解析をしても、自分の業務に直結していないと興味を持たれないのはよくあることです。数値を下げている原因が間接的にあったとしても同様です。そのため、誰もが特定可能な要素にすることが必要です。たとえば、ロイヤルカスタマーといわれる顧客群にはどういう指標や条件があり、それに当たるお客様は○割で、先週から○%下がっていますよ、という具合です。それができてはじめて、異なる部門でも会話が可能になります」と熊村氏は説明。市川氏もそれに同意した。
「データの解析業務に関わったことのない人だと、データのつながりとそのデータが示す個所の関係者が誰なのかがよくわからず、ビジネスの良し悪しも判断できないこともあります。扱っている言葉が違うと中に閉じがちですが、それを定量化すると、数値が下がった原因が何にあるのかが見えてきて改善でき、良いことは部門を跨いでそれを再現するためにどうすればいいのか議論ができるようになるのです。共通言語で喋り、それをデータで表せられるようにするのはとても大事なことだと思います」(市川氏)
2つ目は、「再現性」を高めるためだ。良いパフォーマンスができて、それを再現しようと思っても、データを言葉で定義できていないと難しくなる。逆に再現性を持たせることができていれば、成功要因が明確になり、具体的な施策へ落とし込むことも可能だ。
「再現性があると、仮説の裏付けとしてデータがあるので、社内での認識の齟齬もなくなってくる」と市川氏がいうと、「長くこの世界にいますが、デジタルマーケティングは結局のところ、データを使って仮説の割合をどれだけ少なくするかだと思っています」と熊村氏も続けた。これまで仮説が7割だったものが、データを集めることで5割、3割と仮説の割合が減ってくることにより施策もコントロールしやすくなるという。
また、データを定義することで、確認するタイミングが早くなるというのも、市川氏の実感として感じていることだという。
Datoramaの活用でLTVデータから顧客像を明確にする
次に、データで言葉を定義するためには、ファーストパーティーデータの活用がかなり重要になってくると熊村氏は語った。「これを上手く活用しながら、あやふやな定義で使っていた言葉を再定義する形になるのかもしれません。顧客のLTVデータから逆算して、カスタマージャーニーの作成、KPI設計をしていきながら、自分たちが今取っているファーストパーティーデータでどういう定義ができるのかを考えていくべきなのではないでしょうか」(熊村氏)
それを聞いた市川氏は、「LTVデータから逆算して設計していくならば、量が膨大なために労力はかかりますが、自分たちの顧客接点で取れているファーストパーティーデータをとことん分析して、大事な顧客の姿を明確にしていくことに取り組んでいく必要性を感じています」と言葉を重ねた。また、顧客をより明確に「知る」ためには、CRMの顧客データをはじめ、社内外に分散しているデータを1つに集約・統合して分析していくことが必要となる。
そこで紹介されたのが、セールスフォースが提供するマーケティングインテリジェンス・プラットフォーム「Datorama(デートラマ)」だ。増加するマーケティングデータを簡単に統合・可視化・分析することを可能にしたツールになっている。
主要メディアを売り上げやエンゲージメントなどの項目別に比較したり、トレンド分析として費用とコンバージョンの関係性を見たりすることができる。どんなクリエイティブが刺さったのか、広告パフォーマンスを上げた要素は何かなど、各変数がどうつながっているかが一目で把握できる。「それによって、次の打ち手の判断もしやすくなります」と熊村氏は説明する。
実際のユーザーでもある市川氏は、Datoramaの良さを次のように話す。
「『Datorama』は、ほとんどのマーケティングデータをつないで統合できる上、つなぐための手間や初期投資がかからない使い勝手の良さを感じています。単純に広告の投資予算最適化を見るだけでなく、データで定義した軸と組み合わせてデータを活用できるようになると、ロイヤルカスタマーがどう増減しているのか、その施策でどれだけ顧客を獲得できているかなど、より深化した目線で見られるようになります。そうしたデータの掛け合わせが素早く、容易にできるのも魅力ですね」(市川氏)
集計から解放されるだけでなく技術的に深い考察が可能に
加えて集計がなくなることによるメリットも実感していると市川氏は続けた。広告運用をしていたときに、定例会でデータを提出した直後に次の定例会のために始めないと間に合わないぐらい集計に時間がかかってしまっていたという。
「クライアントの言葉の定義やKPIに合わせて集計し直す。それに満足してデータをどう活用するかまで見えていませんでした。そのため『Datorama』などを利用することで、処理に手間がかからなくなると、より深い分析や、正確に状況を把握することに時間がかけられるようになります」(市川氏)
「データの散在といわれる部分(広告、メール、Web・アプリ、セールス&コマースなど)がまとめられれば、集計作業がほぼなくなるカタチでレポートが作れるようになるし、データを共有する際、チーム間によって見せ方を変えていたのを、しなくてもよくなりますよね」(熊村氏)
全部門が協力し顧客体験を設計していく時代に向けて
コロナ禍に入り、リモートワークが用いられるようになった現在、Datoramaのような共通のダッシュボードを見ながら意思決定を下せる状況を作っておくことの大事さを痛感していると両者は話す。
顧客体験を考えるすべての人たちの“共通基盤整備”こそがこれからのマーケティングに求められるものだと熊村氏は主張した。
「さらにいえば、ポストクッキー時代に限らず、今後は共通化された基盤の中であらゆる部門や担当者が協力して一枚岩で“顧客体験”を設計していくことが必要です。その実現のためにもやはりデータ統合・分析が欠かせない、データ断絶が少しでもあると失敗してしまいます」(熊村氏)
「冒頭からお話させてもらいましたが、言葉をデータで定義する、共通言語にすることができないと、なかなかデータサイエンティストと広告担当者、広告担当者とシステム担当者が同じ方向に向かって話ができないと思います。それぞれにまったく異なる言葉を使っているので。そこの共通化を図って、顧客体験でそれぞれのスペシャリストが同じものを作っていくことが一番大事になってくるのだと思います」と市川氏は話す。
それに対し、「結局言葉をデータで定義するというのは、データドリブンなマーケティングを進めていくことだけではなく、最終的に顧客体験を様々な部門が一枚岩になって作っていくことを考えたときには、言葉をデータで定義するための仕組みづくりとは、経営基盤そのものなのではとも思っています」と熊村氏も自身の考えを述べセッションをしめくくった。