“検討前”の施策を行動指標で測るには
このような話をすると、「検討前の施策については、行動やファイナンシャルリターンをどのように測ればよいのか」と戸惑う読者もいるかもしれない。確かに購買サイクルが長いカテゴリーは、検討に入るまでの期間が長く、その評価は難しい。
しかしこうしたカテゴリーにおいても、能動的に行動したか、またファイナンシャルリターンがあったかを見るための方法は存在している。たとえば、施策を実施した数ヵ月後の売上と施策のなんらかのKPI(TVCMならGRP、DigitalならImpressionなど)との相関を計算し、何が売上に影響したのかを時系列データから解析する手法や、トレンドから本来の売上などを予測する自己回帰モデルや時系列因果推論を活用し、本来何もしなかった場合の売上をシミュレーションして、それと実際に施策を実施した際の数値とのGapから評価する手法などがある。
あるいは、売上へのサブ指標として、能動的に行われる検索活動などを目的変数として設定し、いわゆる時系列の重回帰分析を実施し、実際の施策やメディアごとの効果を測定するなどの手法もある(正しいサブ指標はカテゴリーによって異なるし、すべて売上に相関しているかは確認しておく必要がある)。

特に購買サイクルが長いカテゴリーにおいては、検討前から検討・購買に移る際、自分でカテゴリーやブランドのことを調べようと行動することが多く、その行動自体をサブ指標に置くことは、検討そして購買につながることになるので、本質的にビジネスに繋がりやすいことが多い。逆に購買サイクルが短いカテゴリーの場合は、自分で考えずブランド側からの情報のみでとりあえず買ってみる行動を起こすことが多い(例:消費財やお菓子、飲料など)。よって、必然的にその場で購買ができる店頭での影響力が大きくなる。
期間が長いことにより、評価指標は同一でも基準が変わることもあれば、サブ指標を作ることもある。サブ指標を設定すると、目的とする能動的な行動の種類が購買以外に存在することがわかる。ちなみに、施策ごとの効率を購買サイクルから能動的な行動に落とし込んで評価をする議論は、「必要だがあまりされていない」のではないかと思う。
購買サイクルが長いカテゴリーの検討前の期間は、売上などのファイナンシャルリターンを証明しにくいが、そんな中でも、消費者に行動を起こしてもらう施策をプランする方法を2つ紹介したい。
【1】評価手法からのアプローチ
たとえば上記で示した通り、検討前の施策のKPIを、行動を起こしやすくかつ売上に相関があるサブ指標(検索行動など)に設定することで、より具体的な施策をプランしやすくする。
【2】ファイナンシャルリターンの効率を重視したアプローチ
他社とのパートナーシップなどにより、大きな投資をせずに効率よく、広くユーザーがいる場所やモーメントに届けるということも考えられる。ここで言うパートナーシップとは、メーカーと小売や、代理店契約の類ではなく、協業先とそれぞれのゴールを持って投資しあい、Win Winの関係で実施するプロジェクトのことを指す。常にWin Winを意識する必要があるため、自社だけのコントロールが効きにくい難しい活動ではあるが、大きな投資をともなわず、上手く行けば効率的に、検討段階に入る前のユーザーを含めて、広くユーザーに届けることができる。特に自社のブランドやそのベネフィットと関連している協業先があれば、積極的にアプローチすべきだ。
たとえば、アドビの製品をパートナー企業を通して契約すると3ヵ月無料になる。その代わりパートナー企業には、自社経由のユーザーや自社メディアを通じて広めてもらう(この活動はパートナー企業側の投資)。パートナー企業は、さらなる新規ユーザー獲得や、ユーザーのリテンションを狙い、アドビ側は今までリーチ出来ていなかったユーザーに、幅広く製品を試してもらうことができる。こうすることで、大きく投資せずに広く検討前のフェーズにアプローチすることができる。アドビの協業先の例としては、たとえば動画だとYouTubeやTikTok、また昨今だとモバイルでの写真編集も盛んなことから、モバイルOEMや通信キャリアなども可能性として挙げられる。