成長するのは、貢献したい人
――自分が経験してきたことでしか、基本的にはキャリアは評価されないということですね。
転職するというのは、自分の価値を売ることです。そのため、自分が次の会社に行って「〜〜について勉強したいです」と言っても、なかなか採用してもらえないのではないでしょうか。もちろん、5ヵ国語話せます、弁護士資格を持っていて、プログラミング言語も会得したみたいなとんでもないスペックや可能性を持った人ならポテンシャル採用もあるかもしれませんが。
また、勉強したいという人よりも、貢献したいという人のほうが皮肉なことに成長しやすいです。「7:2:1の法則」という米国のロミンガー社の調査をもとにした法則では、仕事における学びの7割は仕事の経験から、2割は上司や顧客など他者からのフィードバックから、1割は書籍やセミナーから得られると言われています。つまり、会社からすれば仕事の経験は重要な資産というわけです。
大きなプロジェクトを任せるのであれば、可能な限り会社の中で貢献している人に任せたいですよね? つまり、成長する人というのは会社の中で常に貢献して、より貴重な経験を取りに行っているのです。
キャリアアップのために日々できる努力とは?
――マーケターとして、キャリアアップするために日々できる努力はありますか。
序盤に話しましたが、まずは市場を意識して、どういった人材になりたいか考えること。そして、その上で転職なのか社内でのジョブチェンジをするのかを検討し、自分の市場価値をどのように高めていくのか立ち止まって見直すことですね。
加えて、社外にメンターを持つことも有効だと思います。キャリアに関する相談相手として一般的なのは上司と転職エージェントですが、前者は社内でのキャリアアップ、後者は転職ありきのアドバイスに偏る傾向があるので、中立的な立場で相談に乗ってくれる相手を作ることは有益だと思います。私が現在メンターをしているマーケターキャリア協会など、メンターに相談できる場を活用することをおすすめします。
――市場を意識するために、転職サイトなどで求人の量などを調べるのも一つでしょうか。
徹底的に調べて細かな市場規模まで把握する必要ないとは思いますが、どのくらいの企業が自身の職種に関する求人を出しているかはチェックしておくといいですね。また、企業のマーケティング活動においてデジタルとマスを分けるのはナンセンスだとは思いますが、人材市場という観点ではデジタルの実力と実績を積んだほうが年収は上がりやすいと思います。理由は簡単で、デジタルマーケターに関する求人のほうが、マスマーケターよりも多いからです。

貢献を意識しキャリアを築け
――最後にキャリアに悩むマーケターに向けてアドバイスをお願いできますか。
とにかく貢献を意識せよ、ということですね。成長したいのであれば特に意識すべきですし、最初は今の会社での貢献であり、そこから地域、国、社会、人類と貢献範囲を広くしていくことがキャリアのあるべきジャーニーだと思います。
私がキャリアの選択をするときも、どれだけ多くの人に貢献できるのかを基準にしています。実際、貢献できる相手の数が多いほうが得られる経験値も報酬も多くなりますからね。
――井上さん、貴重なお話をありがとうございました。マーケターは普段扱っている商品・サービスの市場がどのくらいかを意識して施策を考えますが、キャリアも同様に向き合う市場を定義するところからスタートするのが大事だとわかりました。ぜひ読者の皆さんも自分がどの市場でキャリアを歩むのか考えてみてはいかがでしょうか。