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江端浩人氏に学ぶ、マーケティングとテクノロジー改革の最前線

ハードをどうサービスに変換するか?「デジタルのカシオ」が進めるHaaS戦略とDX組織への変革

 DXへの注目が高まるなか、その波にどう乗るべきか模索している企業も少なくないだろう。また既にDXを推進している企業も、それがただの「デジタル化」にとどまっていないか見直しが必要ではないだろうか。これまでに各種企業のDXを見てきた江端浩人氏は、現状を踏まえ「ITの技術面からだけでなく、マーケティング視点を持ってDXを推進することが必要」と主張。そうしたマーケ視点のDXを「DX2.0」と名付け、そのフレームワーク「DX2.0の4P」を著書『マーケティング視点のDX』で提唱している。本連載では、そのフレームワークに基づいて事業を成功させている企業を紹介していく。今回はカシオ計算機(以下、カシオ)のデジタル統轄部長、石附洋徳氏にインタビュー。DX組織への変革、世界的ブランドG-SHOCKマーケティングでのデジタル戦略などをうかがった。

カシオが進めるDX組織への変革

江端:石附さんはこの3月まで、デジタルマーケティング部長として活躍されていましたが、部署としてどのようなミッションが課されていたのでしょうか。

石附:デジタルマーケティングは広義に解釈されますが、私たちの部では、プロモーションにおけるデジタル化企業全体のDX化の推進が大きなミッションでした。

 施策としてのデジタルマーケティングはもちろんのこと、それに向けた組織や事業変革のサポート、顧客との接点となるECサイトやデータプラットフォームの整備など、業務領域は広範囲にわたります。

 営業最前線から開発生産までをつなげていくことが求められているので、その分幅広いサポートが必要とされていますね。

カシオ計算機株式会社 デジタル統轄部長 石附洋徳氏2019年からカシオ計算機株式会社に参画し、カシオの新しいデジタルマーケティングの仕組みづくりをリード。2021年より全社のDXを統合・推進する組織としてデジタル統轄部を立ち上げ、責任者としてカシオのバリューチェーン全てのDX推進を統括。
カシオ計算機株式会社 デジタル統轄部長 石附洋徳氏
2019年からカシオ計算機に参画し、カシオの新しいデジタルマーケティングの仕組みづくりをリード。2021年より全社のDXを統合・推進する組織としてデジタル統轄部を立ち上げ、責任者としてカシオのバリューチェーン全てのDX推進を統括。

江端:CDOと似た役割で、全社のデータやデジタル活用を推進されているのですね。

 かつて「デジタルはカシオ」というキャッチフレーズでCMを流されていたように、御社はこれまでに、「計算機」「辞書」「時計」「楽器」など様々なモノをデジタル技術で進化させてきました。そんなカシオが今度は社内プロセスやサービス提供、組織体制のデジタライゼーションを図っているわけですが、現状の取り組みについて教えてください。

江端浩人事務所 代表/エバーパークLLC 代表iU 情報経営イノベーション専門職大学教授江端浩人氏米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラでiマーケティングバイスプレジデント、日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長、アイ・エム・ジェイ執行役員CMO、ディー・エヌ・エー(DeNA)執行役員メディア統括部長、MERY副社長などを歴任。現在はエバーパークLLC、iU情報経営イノベーション専門職大学教授および江端浩人事務所代表として各種企業のデジタルトランスフォーメーションやCDOシェアリング、次世代デジタル人材の育成に尽力している。メンバー7,000名超の次世代マーケティングプラットフォーム研究会主宰。著書に『マーケティング視点のDX』(日経BP)
江端浩人事務所 代表/エバーパークLLC 代表iU 情報経営イノベーション専門職大学教授 江端浩人氏
米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラでiマーケティングバイスプレジデント、日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長、アイ・エム・ジェイ執行役員CMO、ディー・エヌ・エー(DeNA)執行役員メディア統括部長、MERY副社長などを歴任。現在はエバーパークLLC、iU情報経営イノベーション専門職大学教授および江端浩人事務所代表として各種企業のデジタルトランスフォーメーションやCDOシェアリング、次世代デジタル人材の育成に尽力している。メンバー7,000名超の次世代マーケティングプラットフォーム研究会主宰。著書に『マーケティング視点のDX』(日経BP)

石附:DXへの取り組み自体は、デジタルマーケティング部が立ち上がった2020年6月頃からのスタートなので、まだ1年も経っていません。ですが動きとしてはそれ以前、私が2019年9月に入社した頃から、会社の課題や不足点の洗い出しなどいろいろと準備をしてきました。

 これまで当社はメーカーとして典型的な縦割り組織で、各部署をつなげる仕組みがありませんでした。今は縦割りを打破する役割としてDXを据え、私たちが声をかけて横をつないでいるところです。

 体制としては、この4月から「データやデジタルに関する様々な業務変革をリードする組織」としてデジタル統轄部が立ち上がり、そこが機能本部(開発、生産、CS、営業部など)に横串を通し、組織を整えながら一緒になってテーマごとにDXを進めることになりました

江端:DX推進専門部隊として、今後はDX関連の予算はどのように捻出されていくのでしょうか?

石附:ケースバイケースですね。

 全体に関わる仕組み構築については、デジタル統轄部で予算を確保して動きますが、サービスや製品単位の話であれば、それに関わる各部門から予算を集めます。

江端:私は著書の中でマーケティング視点のDXの重要性と、それを実行するためのフレームワークとして「DX2.0の4P」を提唱しています。これは「Problem(課題)」「Prediction(未来予測)」「Process(改善プロセス)」「People(人の関与)」の4つの要素から構成されるものです。

 その上でまずは「Problem(課題)」、顧客や社会のインサイト、企業活動における現状の問題点をしっかりと把握し定義づけることが大事と考えているのですが、その点いかがでしょうか。

江端氏が『マーケティング視点のDX』で提唱した「DX2.0の4P」
江端氏が『マーケティング視点のDX』で提唱した「DX2.0の4P」

石附:まず“顧客との距離が遠い”というメーカーならではの問題を「Problem」に設定しました。そして顧客と直接つながりを持ち続けながら豊かなブランド体験を提供し、製品やカシオを好きになってもらえている状態を、DX2.0の4Pでいう「Prediction(未来予測)」と捉えることに。そのためにどうDXを進めるべきかを我々の組織で整理して、社内への浸透を図っているところです。

 具体的な解決策のひとつとして、あらゆるところから顧客データを集めて統合プラットフォームを構築しようとしています。社内ではユーザーデータプラットフォーム構想と呼んでいるのですが、それと共に入り口となる会員組織を作り変え、とにかくIDを取っていくことからはじめていきます。

江端:3つ目のP「Process(改善プロセス)」もしっかり考えられているんですね。

 最後の要素「People(人の関与)」、DXを支える人に必要となるマインドやケイパビリティ教育に関しても何かされていることはありますか。

石附:全社的にケイパビリティを底上げする取り組みとして、社内の教育を進めています。

 部内にはアナリティクスリーダーズといってデータをどう読み解くのか、分析をサポートしたりトレーニングする組織を作り、各部門に声をかけて研修をしたり悩みを聞いたりもしています。

 成果はこれからになりますが、経営層含めて問題意識を共有できる人は増えたようです。組織横断で話し合って何かを生み出そうという動きも活発になってきたと感じています。

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この記事の著者

江端 浩人(エバタ ヒロト)

iU大学教授、江端浩人事務所 代表、MAIDX LLC代表、AlMONDO事業顧問

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラでマーケティングバイスプレジデント、日本マイクロソフト業務...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2021/05/11 08:00 https://markezine.jp/article/detail/35820

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