販促物の違いは売り上げの差に直結する
「SDGs時代の店舗販促のありかた―販促物を起点に店舗DXを実現する―」と題された本講演。登壇した水上印刷 マーケティングディレクターの松尾氏は、はじめに講演で持って帰ってほしい3つの結論を次のように提示した。
(1)販促物は売上UPに貢献するが、使われずに破棄される場合や、設置・取り外しなど店舗の負担になっている場合も多い。
(2)「必要な販促物を必要な数だけ」作ることができれば、売上UPと環境負荷・店舗負担の軽減を両立できる。
(3)店舗・販促物情報のデータベース化、システム化を中心に、制作から仕分け、梱包・発送まで、販促物の制作フロー全体の仕組み化が必要
そもそも、なぜ店舗には販促物が必要になるのだろうか。経済産業省の2019年のデータによると、国内のEC比率は6.8%。コロナ禍の影響もあり、現在はもう少し増えていると予想されるが、それでも実店舗での買い物の方が圧倒的に多いことに変わりはない。
「店頭で商品を買う際、消費者は商品を認知し、興味を持つことで購買に至ります。どの商品を購入するかを店頭で決定する割合は、8~9割にもなると言われていますので、販促物で消費者にいかに情報を届けるかはとても大事です」(松尾氏)
水上印刷株式会社 マーケティングディレクター 松尾 力氏
京都大学卒業後、経済産業省へ。2014年より水上印刷へ参画し、ICT部門の立ち上げやコンサルティング部門の立ち上げなどを行う。現在はマーケティング責任者として、チームの立ち上げ及びマーケティング業務全般を担当している。
水上印刷では、自社でコンビニエンスストアの経営を行い、実証店舗としても活用している。そこでの調査の一例を挙げると、アイスクリーム売り場の販促物を、小さいものと什器の横幅を最大限活用したの大きなもので比較した場合、売り上げ個数に2.4倍もの差が出たそうだ。別日に実施した調査のため、販促物以外の要因も関与している可能性はあるものの、横幅いっぱいの販促物を掲示している時期のほうが気温は5℃ほど低いハンデがあったにも関わらず、良い結果が出ていた。来店者にきっちり情報を届けることが、売り上げに直結することがわかる例である。
最近では、デジタルサイネージや電子棚札による店頭での情報発信も行われているが、コストがかかること、電源供給が必要なことなどから、まだまだ紙製の販促物がメインの情報伝達ツールである。
販促物の半分が破棄されているケースも
しかしながら、せっかく作った販促物が使われないまま破棄されてしまうケースもある。水上印刷があるドラッグストアを調査したところ、販促物の半分が使われないまま廃棄されていることが判明。その店舗にはメーカーからの販促物が週に20個ほど届いているが、店頭に設置するのは半分ほどだという。
この背景には、店舗スタッフが販促物を開梱・選定・設置する手間の問題がある。
「メーカー各社や自社の本部からバラバラに送られてくる販促物を開梱し、その中からどれを付けようかと選定したり、実際に設置したりする作業が店舗スタッフの負担になっているのです。また、販促物が什器のサイズに合わないため設置できないという場合もあります」(松尾氏)
こうした非効率はなぜ生じてしまうのだろうか。松尾氏はその背景について、小売店舗、メーカー、物流の3つの観点から整理した。
店舗による違い、在庫管理の難しさなどが障壁に
まず小売店舗での主な課題は、「店舗ごとに適した販促物が異なる」「店舗ごとに販促物を作り分けられない」の2つが挙げられる。
立地や客層、什器のサイズ、面積やレイアウトなどが違うため、店舗によって使用するのに適した販促物は変わってくる。しかし、それに合わせて作り分けるのは難しい。各店舗の特性や什器サイズなどのデータがそろっていないことも多く、たとえデータがあったとしても、作り分けや配送のコストを考慮すると現実的ではないという。
次にメーカーの視点では、「生産数量がわからない」「在庫管理ができない」「カスタマイズ要求がある」の3つが挙げられる。
店舗に販促物を設置してもらえるかは商談しだいで決まるところがある。メーカーの本部で販促物がどれくらい必要になるかを営業から集計するのはとても時間がかかる作業のため、結果的に締め切りが早くなり、商談が間に合わず、予測で生産せざるを得ないのだ。
また、全国に営業所があるようなメーカーでは、その時々の在庫状況を正確に把握するのが難しい。そのため、別の営業所には販促物の在庫があるのに、在庫を切らしたエリアでは販促の機会を損失するということも起こってしまう。
加えてメーカーには、取引先ごとに販促物のカスタマイズをしてほしいという要望が集まることも多い。そうした声に対し、営業担当が自身で制作し対応している場合もある。ブランドチェックやコンプライアンスチェックが必要な場合は、本部担当者の作業負担にもなる。
そして物流の視点では、「受取や開梱が店舗の手間になる」「メーカーの配送コスト負担が大きい」「(配送経路が多いことで)CO2が増加する」という3つの課題がある。
SDGs時代に目指すべき販促物のあり方とは?
環境負荷や二酸化炭素排出量を減らしていこうというSDGs時代において、使用されない販促物の制作、それにともなうCO2排出は減らしていきたいところだ。松尾氏はその解決策として、次のように呼びかけた。
「単純な話ですが、必要な販促物を必要な数だけ作れる体制を整えることが有効です。また、配送を一本化することでCO2の発生を減らし、コスト削減にもつながります」(松尾氏)
水上印刷では、前述のような課題をデジタルの力で解決するサービスを、メーカー、小売店舗それぞれに対して提供している。松尾氏は、販促物を準備、梱包、配送する各フローに沿って、同社のソリューションを説明した。
販促物のDXを実現するソリューションを紹介
まず店舗ごとの違いが大きく、管理が難しいという課題を解決するために、店舗情報や販促物の情報を集約するデータベースを構築。たとえば各店舗の窓の数、レジの台数、什器のサイズ、取扱商品などの情報を蓄積しておく。
「データベースから、適した販促物のサイズやその店舗で展開予定の商品を知ることができ、本当に必要な販促物を把握・制作できるようにしています」(松尾氏)
店舗ごとに合った販促物を配送する際には、同社の「デジタルピッキングシステム」というラインを活用できる。ラインの先頭で店舗情報を読み込ませると、データベースでその店舗に必要な販促物が瞬時に割り出され、一つひとつの梱包内容をカスタマイズできる仕組みだ。
「このシステムにより、リードタイムもコストも上げることなく、店舗ごとに送付する販促物を入れ分けています」(松尾氏)
各店舗への配送に関しては、配送経路を水上印刷のロジスティクスセンターへと一本化することで、コストを削減している。同社では販促物の製造も請け負っているため、同じ場所でとりまとめて制作することで、製造そのもののコストも抑えることが可能。CO2削減と事業者の負担軽減を両立させる方法だ。なお同社では、販促物や備品の回収、再利用のための仕分けも引き受けているという。
販促物の取り付け時間が30%削減された実績も
続いて松尾氏は、小売店舗とメーカー双方の負担をさらに軽減するためのソリューションを紹介した。まず小売店舗に関して、同社ではコールセンター機能を提供しており、店舗からの販促物の追加発注などにも対応している。
また、店舗で設置する際、歩き回ることなく設置できるよう、店内の棚の並び順に販促物を梱包。さらに、撤去日ごとに目印の色をつけることで、たとえば「今日はピンク色のものを取り外す」などと識別し手早い撤去が可能に。これらの工夫により、ある店舗では販促物の取り付け時間が30%削減できたという。
メーカー側の課題に切り込む3つのクラウドサービス
一方、メーカー側の課題に対しては、3つのクラウドサービスを提供している。まず、必要な販促物の数量がわからないという悩みについては、オンライン集計システム「Instant Counter」を提供。販促企画の内容や各拠点で必要な数量が確認できるようになり、業務プロセスの改善・コストの適正化につながる。
2つ目は、カスタマイズの要求にこたえる、オンライン販促物編集システム「Edition Now」。販促物の編集ができる機能で、商品画像など変更不可能な部分とカスタマイズ可能な部分を設定しておくことも可能。これにより、一定のレギュレーションを保ったまま店舗ごとにカスタマイズした販促物を制作することができる。
3つ目は、販促物の在庫数をリアルタイムで見える化する「Click So-ko」。一定数以下になるとアラートを出してくれるので、不良在庫を防ぎながら、販促の機会を逃さない。
売上UPと環境負荷軽減の両立を目指す
水上印刷では、一連のサービスや機能によって、販促物の制作から仕分け、配送、設置までフロー全体を仕組み化している。その思いについて、松尾氏は次のように述べている。
「店舗や本部の方々の負担を軽減することで、本来の業務である企画や接客に時間を割いていただき、店舗そのものの価値向上につなげていただければと思っています」(松尾氏)
加えて同社が強く意識しているのが、販促物による売り上げUPと環境負荷軽減の両立だ。同社においてもカーボン再生可能エネルギーの活用を推進しており、2021年4月期からは全拠点において、CO2排出ゼロを実現していく。このような観点からも、協業パートナーを募集しているということだ。
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