デジタルマーケティングの定義も見直してみよう
ここで、デジタルマーケティングについても筆者の考えを簡単にお伝えしたい。マーケティングといえばデジタルマーケティングと言われる企業もあり、その台頭が叫ばれて久しいが、筆者の観点では、マーケティングをデジタルマーケティングなどのHOWを中心に考えてしまう、つまり狭義のマーケティングで実施している会社が特にIT業界では多いように思う。

根本的にデジタルマーケティングというのはメディアやプランの選択肢であり、マーケティングの本質ではない。上手く使って効率よくテストしたり改善したり、ターゲットに効率よくリーチしたり、ユーザーデータをつなげてコミュニケーションの最適化を図ることができるのは確かだが、マーケティングの本質を前提とし、それを展開する方法の一つとして考える必要がある。
そうしなければ、デジタルですべてを完結しようとしすぎるあまり、すべてを細かくセグメントに分けて部分最適し過ぎてしまい、全体最適が図れずに結果的に無駄なサイト誘導などが増えていくことになりかねない。
また、サイトへの送客の議論と、送客されたユーザーを購買につなげる議論が別々にされることもある。つまり、サイト誘導による広告の効率化と自社サイト内での購入やユーザー登録などのコンバージョン最適化がそれぞれで行われているということだ。一見正しく見えるが、実態はサイトの誘導に最適化された広告が無駄なトラフィックを生んでいることに気づかない可能性すらある。これはスケールを出そうとすればするほど出てくる問題だが、CPA(獲得単価)を最適化してからCPC(クリック単価)を最適化するといったことで解決するものではない。
マーケティングの本質的な部分である、ターゲットに使ってもらうことや購買してもらうために、カテゴリーやユーザーの理解、そしてカテゴリーとブランドの再定義から、一貫してすべての施策を考えないと、ユーザーの獲得はどこかで頭打ちになる。
デジタルはブランドを体現する手法の一つ
では、デジタルマーケティングは一旦無視してプランすべきかと言うと、そんなことはまったくない。なぜならデジタル化されたユーザーデータはマーケティングの本質に迫りうるレベルまで発展しており、その時のユーザーの状態や無意識な行動に合わせたメッセージや情報を、よりパーソナライズした形で自社Webサイトや広告で表現できるからだ。さらにオフラインとつながるプラットフォームもかなり広がっていて、店舗やオフラインメディアと繋げたメッセージングもでき、その手法も進化し続けているのである。
本連載で繰り返しお伝えしている購買サイクルの考え方に基づくと、デジタル上のアプローチは、特に購買サイクルが長ければ長いほど、ブランドを検討すらしないフェーズから自分で調べ始めるフェーズ、そして購買のフェーズに移る際に、ユーザーとパーソナライズされた自社コンテンツやインターネット上に存在するコンテンツなどをつなげ、ユーザーを次のフェーズを動かす潤滑油として機能させるということになる。これが、マーケターがデジタルマーケティングのトレンドを常に知っておくべき理由であり、今後も決して無視できない理由である。

また、(特にオンラインサービスであれば顕著なのだが)デジタル上で施策を評価するシステムは常に刷新していくべきだ。最新のシステムでは、何らかの事柄に一定の興味があるユーザーが何を検索しているのか、どこからサイトに訪れたのか、何をどれだけ見ているのか、どれだけトータルでそのコンテンツにあたっているのか、といった情報をすべて把握でき、誰が何によってどんな行動を起こしたのかなど施策の評価がしやすく、次のフォーカスも立てやすいからだ(クッキーレスにより出来ることが変わり、デジタルの位置づけも変わるが、そのあたりはまた別の機会でお話したい)。
アドビではData Driven Operating Model(DDOM)といって、ユーザーの広告から購買までのすべての動きを把握できる環境がある。また電通と協業し、「新規顧客の獲得」と「既存顧客の育成」を一本化する「デュアルファネルソリューション」を提供しており、自社のユーザーを把握し、使い続けてくれるユーザー像を明確にした上で、新規顧客のターゲットセグメントとして設定し、広告や自社メディアなどで獲得することができる。そうすることで、より使い続けてくれるユーザーを獲得することが出来るようになる。普通は上から下のファネルの動きが、下から上に動くイメージだ。

しかし、再度強調するが間違ってはいけないのが、デジタルのプラニングツールとしての活用は慎重にならなくてはいけない。プラニングの時点で部分最適が図られすぎ、本来フォーカスすべき価値ではなく、ただ単に人をサイトに誘導するためだけのプランや自社サイト内でのコンバージョンのみにフォーカスしたプランができあがってしまうことがあるので、要注意である。あくまでデジタルはブランドを体現する手法の一つとして捉えてほしい。
まとめ
今回は、マーケティングが広告宣伝など狭義のマーケティングとして定義されており、根本的な見直しがなかなか出来ない組織の突破口を説明した。特に外資系のグローバル企業で本社がブランドの権限を持っている際には、短期的なユーザー獲得やローカルのパートナーシップを活用し、その中で再定義を実現して、結果として示すことが有効であることを説明した。また、一手法にすぎないデジタルマーケティングを、マーケティングの中心として考えることに対しての警鐘を鳴らし、データを繋ぐ潤滑油的なツールとしての用途は意識しつつ、あくまで消費者の無意識を理解し、行動に移す際のメディアの一つとして捉えることを提案した。次回はマーケティングから少し離れて、組織のまとめかた、リーダーシップに関して私見を述べたい。
アドビ 里村氏による連載「マーケティングの本質を探る」の過去記事はこちらから
【第1回】消費者の無意識に入り込み、行動を変えたブランドが市場を制する
【第2回】消費者の無意識に残り続け、第一想起をとれるブランドが大切にしている「カテゴリー理解」とは
【第3回】マーケティングの本質は市場創造、そのために欠かせないカテゴリーの再定義とは
【第4回】ユーザーの無意識にブランドを入り込ませるには?カギは独自性とモーメント
【第5回】「どこで、何を伝えるか?」はマインドジャーニーから考えよう