「ナイスチャレンジ!」と称賛し合える状況を作る
筆者が常に重視しているもう一つのことは、新しいことへのチャレンジと、それが上手くいかなくても上手くいっても「ナイスチャレンジ!」と称賛し合える状況だ。これは、新しいチャレンジが変化を生み、新たな価値を創ることはわかっていながらも、そのような変化を知らず知らずの間に否定していたり、オープンに物事に耳を傾けられなくなるのを防ぐ狙いがある。また、うまくいくこともうまくいかないことも、リーダー自ら新しいことへのチャレンジを推進し、Lead by Exampleを体現することが必要な場合もある。変化に対する拒絶は進化を止めるが、人は知らず知らずの内に変化を怖がる生物なのである。
日本は特に顕著で、ここでは詳しくは触れないが、国民性や文化を定量化したホフステッドの6次元モデルにおける「不確実性の回避」項目でも、他の国々に比べて日本は上位にある。つまり国民性や文化的にも、不確実なもの(先が見えないもの)からできるだけ距離を置こうとする傾向があるのだ。だからこそ、チャレンジそのものを称賛することで、不確実なことに挑戦しやすい雰囲気を意識的に作る必要がある(ちなみに筆者が所属するアドビでは、どんなことでも新しいことにチャレンジした人がいれば、結果に関わらずその人を自薦他薦により表彰する制度を作っている)。
また、そのために、雑談といった隙間時間を意図的に作ることも有効だ。これはそもそものコミュニケーション量を増やし、新しいアイデアが出やすくする、またそれに耳を傾け、いいアイデアは実行に移すという意図がある。また、忌憚のない建設的なフィードバックで、よりよいものを共に目指す相互信頼の関係性を、日頃から作っておけるようにするためだ。コロナ禍によってテレワークが進んだことで、隙間時間がとりにくくなった今、この時間をどのように確保するかは、喫緊の課題といえよう。

なお、リーダーとしては、常に相談できる相手を組織外に作っておくことも大事だと考えている。メンターでもいいし、信頼できる友人でもいい。自分が組織内の人間にも相談できない事柄で迷った時や、どうしても納得できないが、様々な理由から受け入れざるを得ないような時、自分の精神衛生上、人に相談できる環境はリーダーになっても持っておくべきである(もちろん社外秘などの情報は話せないが)。コーチングもその文脈で有効だろう。私も実際2人程、そのような友人がいる。
最後になるが、やはり楽しく仕事をするということである。常に笑顔でいられる組織を意識したコミュニケーションを行い、また自分がバカになり、いじられるリーダーであるべきだと思う。自分の弱みを見せるというところにもつながるが、そうすることで、よりリーダーに対するコミュニケーションハードルが下がり、相互信頼されるような互助型組織に育つのではないか。重ね重ね強調するが、いずれにしても実績を出すことは大前提である。
アドビ 里村氏による連載「マーケティングの本質を探る」の過去記事はこちらから
【第1回】消費者の無意識に入り込み、行動を変えたブランドが市場を制する
【第2回】消費者の無意識に残り続け、第一想起をとれるブランドが大切にしている「カテゴリー理解」とは
【第3回】マーケティングの本質は市場創造、そのために欠かせないカテゴリーの再定義とは
【第4回】ユーザーの無意識にブランドを入り込ませるには?カギは独自性とモーメント
【第5回】「どこで、何を伝えるか?」はマインドジャーニーから考えよう
【第6回】会社によって異なるマーケティングの定義/課題と解決策