アップデートすべき、カスタマージャーニーの捉え方
――昨今では、カスタマージャーニーに基づいてMA施策を検討し、実装することが一般的になってきています。中には、カスタマージャーニーをうまくMA施策に落とし込めないケースも少なからずあるようですが、御社ではどのような原因があるとお考えでしょうか?
大船:まずお伝えしておきたいのですが、カスタマージャーニーの設計自体は“悪”ではありません。設計したカスタマージャーニーがうまく機能しない理由には、施策をMAに落とし込む際のボトルネックが関係しています。
大船:そもそもカスタマージャーニーの設計は、お客様がどういう状態にあるのか、といった“仮説”に基づいて作られるものです。テクノロジーの中で使われる概念ではないので、MAで実装しようとした場合に、どうしてもイメージと現実のずれが生じてしまい、それが施策立案のボトルネックとなっているのです。
「わずか数分」に内包される顧客心理
大船:具体的には一般的な購買行動をベースに考えていただけると、イメージしやすいと思います。たとえば誰かがパーカーを欲しいと思う場合、まず気に入っているブランドのサイトに入りますよね。そして2~3分ぐらい商品を見て「これいいな」と思い、サイズ・色などをチェックしてから購入ボタンをポチっと押す。
この時、マーケティング・ファネルでいうところの「認知」「興味関心」「比較検討」「購買」までが、ものの数分のうちにすべて内包されています。そんな世界でカスタマージャーニーといったフレームワークにがんじがらめになってしまうと、施策として硬直化してしまいます。
――設計したカスタマージャーニーを具体的な施策として結びつける際に、失敗してしまうということでしょうか。
大船:その通りです。例に挙げたように、人間の欲求は突発的に生じるものです。対して企業がMAのシナリオを設計する際には、たとえば「F1-F2層は、Instagramをよく見ているものである」といった企業側の都合で設計してしまうのです。
企業が考えるペルソナから設計するカスタマージャーニー、そして「過去こういう商品を買っているから、この商品にも興味があるはずだ」といったシナリオは、すべて”はずだ”っていう仮説なんですよね。
カスタマージャーニーは概念的に顧客を捉えるものでしかなく、MAをはじめとしたテックに施策として落とし込むこととはイコールではありません。その前提を持ちつつ、カスタマージャーニーとうまく付き合っていくことが正解ではないでしょうか。
システムで実現する「血の通ったコミュニケーション」
――それでは、御社はどのようなコミュニケーションが理想的だとお考えでしょうか? それはどのように実現できるのでしょう?
大船:理想とするコミュニケーションは「欲求が発生した瞬間を、正しく捉え、正しく情報提供する」ことです。顧客には、1日に何通と新着情報やレコメンドメールなどが届きます。当然、毎日そのすべてに目を通すわけではないので、業種業界関係なく一つしかない椅子を奪い合っている状況なのです。
そこで必要となるのは「今、この瞬間に何を欲しているのか」といったモーメントのデータをリアルタイムに捕捉できること、そしてMA施策として活用可能な基盤が整備されていることです。それらの実現のために、弊社ではモーメントドリブンな施策のプランニングとデータ基盤整備、両面から支援可能な体制があります。
岡野:いまだ多くの企業では、メールの開封履歴やWebの情報、会員IDや購入履歴といったデータが、それぞれのプラットフォームやツールでバラバラに存在しています。
岡野:それらのデータを統合することで、まずはツール間の連携を図ります。そして、MAシナリオとして実装する際には、ユーザーの状態に沿ったルールベースでのレコメンドをまずは実装していき、場合によっては機械学習も活用した、より高度なMA施策のプランニングを推進しています。
岡野:つまりこの図のように多くの情報を基に、ユーザーを「実際に生活している一人の人間」として見る、ということが重要であると考えています。
大船:MAを導入する企業は多いですが、社内に点在しているデータを一元的に集約・分析できる基盤であったり、そこで集計したデータをMAに返してあげるようなアーキテクチャであったりを描く企業はまだまだ少ないのが現状です。
それができれば、MAというデジタルでも血の通ったコミュニケーションを実現していけるでしょう。
モーメント起点は「高額・検討期間が長い商材」にもマッチ
――お話しいただいたようなコミュニケーションを実現するご支援の事例を教えてください。
大船:たとえば、アパレル企業の中には、MAで無数のシナリオを同時に走らせている企業もあります。そこで大切にしているのはお客様にとってストレスがないことです。シナリオの優先度をつける取捨選択や、最も利用されているチャネルの特性を活かした最適な配信のプランニングを行い、それをテックの言葉として翻訳できることが我々のケイパビリティだと考えています。
――生活者・消費者目線を踏まえたシナリオを実現できるように、システムに落とし込んでいくということですね。
大船:我々はブランドのビジネスパートナーである、とよく言っていますがもう少し噛み砕いていうと、そこにはビジネスの先にいるお客様も含まれているのです。そこをブレずにクライアントに提案できるという点が、我々の強みでもあるのかなと考えております。
BtoCではアパレルのように瞬間風速的な購買行動をされるお客様と向き合っている企業の事例もあれば、一方で住宅メーカー様のように検討期間が長い商材、自動車メーカー様のように高額な商材を扱っていらっしゃる事例など様々なパターンがあります。
しかし、ユーザーの閲覧状況をリアルタイムに集計して、その人に最適なアドバイスをサイト上で出す、といったモーメントを捉える考え方は、どの商材にも非常にマッチしますよね。想定するシナリオのスパンに違いはあれど、その点では共通していると思います。
ユーザー目線の設計を「テックの言葉に翻訳」
――様々な商材、チャネルがある中で、クライアントとユーザーにとって理想的なコミュニケーションを構築するまでに、御社ではどのようなステップで支援を行っているのでしょうか。
岡野:支援の全体像としては、まずマーケティング全体における戦略のプランニングを行います。そこから徐々にどのようなシナリオが良いか、具体的なデジタルでのコミュニケーションを、商品やチャネル特性も考慮しつつ、細かく設計していきます。
その後、テックの言葉に翻訳を進めて、実装可能な形に調整していくことを行っています。
大船:アプローチのステップとしては、岡野の申し上げた通りです。中でもプランニング領域に関しては、「あるべき施策」の視点と、「ツール・データ」の視点から、現在何がボトルネックになっているのかを見極め、問題を可視化・分類し、ひとつひとつを課題化していく、といったアプローチ手法がグループ内である程度「型化」されているのも弊社の特徴です。どうしても、ツールの持つ機能に縛られ、施策が硬直化しているケースが多い中、どうすればMA施策をより高度化できるのか、数多くの知見がグループ内に集約されています。
ユーザーに寄り添ったコミュニケーションを実現するためのMAツールのフル活用、そのためのCDP構築を含むシステム開発、使用するチャネル毎の配信基盤への割り振りといった、コミュニケーション戦略の細部に至るプランニングが可能なのは、これまでの様々なプロジェクトの知見がしっかりグループ内の資産となっているからにほかなりません。特に、Salesforce製品をはじめとしたクラウドソリューションの実装・運用領域につきましては、製品の特性を踏まえた様々なコミュニケーション戦略のご提案を積極的に行っております。
電通グループ内の連携を強化、より幅広い支援へ
――最後に、マーケティング領域のデジタル活用やMA領域において、御社が今後目指すこと、提供していきたい価値を教えてください。
大船:電通グループではプランニングだけでなくシステム構築・実装までが一体となった一気通貫の支援を提供しています。
2021年1月には「Dentsu DX Ground」という組織を電通デジタル、ISID(電通国際情報サービス)と電通アイソバーで旗揚げしました。主にクラウドソリューションのインテグレーション業務および活用業務の支援を行っております。
クラウドインテグレーションに必要なビジョン構築や新ビジネス/サービスモデルの立案に強みを持つ電通デジタル、先端テクノロジーを活用した多様なITソリューションを提供しているISID、ユーザーエクスペリエンスのデザイン、つまりCX領域に強い電通アイソバーの3社が協業することで、これまで以上の価値を提供できる体制を組めると考えています。さらに同年7月には、我々電通デジタルと電通アイソバーが合併します。そこでも新たなシナジーが生み出せると期待しています。
また電通グループは、様々なITツールベンダーとのアライアンスがあります。マーケティング領域はもちろん、CDP領域やBIなどの可視化分析領域、AI領域、コマース領域など多岐にわたります。クライアントのビジネス課題に沿った形で、ツールの活用をともなうプランニングを行う際は、さらに強みを発揮できるはずです。
我々3社の協業によって、お客様を支援する全方位体制はより強固なものとなっていくでしょう。