Instagram運用の狙いは「旅情の喚起」
MZ編集部(以下、MZ):本日は、日本航空(以下、JAL)でWebコミュニケーションの全体を見られている山名さんと、JALでのInstagram版SEO分析ツール「moribus(モリバス)」の活用を支援されているAIQの今井さんに、Instagramのデータの価値や活用の可能性についてお話を伺っていきます。はじめに、お二人のご経歴と現在の業務について教えて下さい。
山名氏:私は新卒でJALに入社し、IT企画部で情報システムに関わる業務に携わりました。その後、成田空港で国際線旅客業務に従事し現場経験を積み、本社に戻ってからは、航空券の予約・購入ができるECサイトのWebマスター的な業務をはじめ、大型のITプロジェクトのPMなどを経験しました。2016年に会社のSNSを専門で担当するチームが新設され、現在はそのチームの責任者としてWebコミュニケーションを統括しています。
成田空港で国際線旅客業務を担当していた時以外は、ITとデジタルマーケティングが半々というキャリアで、異動の回数も少なく、社内では異色の経歴です(笑)。
今井氏:リクルートライフスタイルで広告営業を経験した後、AIQに参画しました。AIQは、ヒトの見えない領域を可視化し、さらなる可能性を拡張する“INSIDE TECH”によるソーシャルマーケティング事業を展開しています。その延長として、インフルエンサーマーケティングの事業もスタートさせており、その責任者も務めています。
MZ:JALでは、Instagramの運用をインハウス化するタイミングで「moribus」を導入し、データ活用の取り組みを進めていると伺っています。まずは、どのような目的でInstagramを運用しているのか、教えて下さい。
山名氏:Instagramは、ビジュアルが中心のソーシャルネットワークです。ファッション誌をパラパラとめくるように、写真を見て何かを感じてもらう媒体だと認識しています。
そのため、我々のアカウントではお得な運賃や新サービスを紹介するようなことはほとんどありません。フィード投稿は、きれいな風景の写真と航空機の写真の組み合わせが中心です。
想定しているターゲットは、旅行は好きだけど航空会社へのこだわりはない人です。プライベートで旅行する時、飛行機を使うならJALに乗りたいなと思っていただけたら、そのような態度変容を期待しアカウントを運用しています。
コロナ禍で気軽に旅行ができなくなりましたが、JALのInstagramを見て旅行した気分になったり、次の休みはここに行ってみようかなと計画してみたり、旅情喚起をすることが狙いです。
コロナ禍における経費削減のため運用のインハウス化へ
MZ:Instagramの運用を外注していた時期もあるそうですが、インハウス化に至った理由は何だったのでしょうか?
山名氏:2020年の4月から自社運用に戻しました。理由のひとつに、新型コロナウイルス感染拡大による航空需要減があります。収入が落ち込んでいる中で少しでも費用を削るために、内製化できるものは内製化することにしました。外部運用について何か問題や不満があったということではありません。
ですが、内製化してみると、夜間や休日は何かあった時に外部運用では対応できないために投稿できないといった制約がなくなりました。
今井氏:JALさんのようにInstagram運用をインハウスで行うという企業は増えていると感じています。我々AIQでは「moribus」を通じて運用代行企業のお手伝いもしていますが、インハウス化の支援サービスを提供する動きが増えていますね。ニーズはある一方で、プロの運用レベルの高さにハードルを感じてしまい、インハウス化に踏み切れない企業も多いようです。
山名氏:我々がスムーズにインハウス化できたのは、もともと凝ったクリエイティブな作り方をしていなかったということも大きいと思います。航空機の写真は社員が撮影したものを使うか、プロの写真家が撮影したものを使用することが多く、また風景写真はほとんどがUGCで、テーマに合ったUGCをInstagram内で探して、投稿者にDMで連絡して使用許可を得ています。外部に頼らずとも、社内に人さえいればできる作業なのです。
現在は、JAL本社で4人、関連会社のJALブランドコミュニケーションで8人の12人のチームで、Instagramだけでなくその他のSNSやコミュニティサイトの運営など、Webコミュニケーション全体を運用しています。
Instagramのインサイトでは得られないデータも
MZ:「moribus」はInstagram版SEO分析ツールとのことですが、基本的な機能についてお聞かせ下さい。
今井氏:一言でいうと、「moribus」は、AIを用いてInstagram内のあらゆるデータを可視化するツールです。Instagramのアルゴリズムに利用されているInterestとRelationshipに関わる指標が定性・定量的に検証しやすいUI/UX設計になっています。JALさんは主に自社のアカウントが誰に支持されているのかを把握するために活用されています。
これに加え、アカウントに合わせハッシュタグを最適化し、ターゲットへのリーチを最大化する機能もあり、InstagramでSEOを行う要素が詰まっています。
山名氏:我々が「moribus」の導入を決めたポイントは大きく2つあります。
1つ目は、ダッシュボード機能です。Instagramにもインサイトというダッシュボード機能がありますが、やはり「moribus」はしっかり考えて作られているのでUIが全然違います。知りたい情報がすぐにわかるだけでなく、Instagramのインサイトでは得られないエンゲージメントの内訳なども一目で把握することができます。
2つ目は、レポートの機能です。以前は外部運用会社に月次レポートのような形で投稿の結果をまとめた資料を作成いただいていましたが、「moribus」ではこのようなレポートが自動で出力されます。そのレポートの内容が素晴らしく、まったく加工せずに社内で共有することができるレベルで、業務時間が一気に短縮されました。
眠っていたデータが活用可能な状態に 多角的な分析が実現
MZ:かなり効率化が進んだんですね。「moribus」により、明らかになった傾向はありますか?
山名氏:フォロワーの属性や一投稿単位で反応者の属性を把握できるようになりました。
Instagramのユーザーは匿名の方が多く、プロフィールに性別、年齢層、居住地などを正確に記入している人は少ないですが、「moribus」は過去の投稿からこの人は20代の男性で首都圏在住だろうなどとプロフィールを推測してくれます。
これを利用すると、フォロワーの男女比、年代別の傾向、居住地はどこのエリアが多いのかといったことが明らかになります。
今井氏:こちらが「moribus」で見た投稿別のエンゲージメント数比較のレポートです。これを見てみると、JALの機体が写っている投稿の数値が高いことがわかります。一覧になることで、ファンに支持されるクリエイティブを容易に可視化することができます。
各投稿の分析についても、エンゲージメントの推移や、フォロワーと非フォロワーの割合など、どのハッシュタグで人気投稿に掲載されたかなどが瞬時にわかります。
コミュニティサイトの運用にもデータを横展開
MZ:「moribus」の導入により実感している成果はありますか?
山名氏:フォロワー数を投稿の工夫で増やすことは難しいと考えていました。以前は宣伝部が出稿した広告からフォローにつながっていた部分が大きかったのですが、コロナ禍で出稿が減ったことでこれが期待できなくなりました。
ところが、「moribus」の活用によりエンゲージメントが増加したため、出稿が減った後もフォロワーは順調に伸び続けています。
MZ:Instagramの運用に限らず、「moribus」から得られたデータを有効活用されていると聞いています。
山名氏:弊社では、「moribus」とDOMOを連携させているので、なにか施策を実施した時にFacebook、Twitter、Instagramそれぞれでの反応を比較して、どこで反応がいいのかを見たりもしています。これまでは、「いいね」の内訳といっても、フォロワー/非フォロワーの比率くらいしかわからなかったのですが、毎投稿必ずいいねをしてくださる人、つまりエンゲージが高い人を深掘りできるようにもなりました。
このように多角的な分析ができるようになると、たとえば、ある旅先をこういう層にアプローチしていきたいという施策がある時、こういう角度でこういう色調のクリエイティブがいいのではなどと考えることができます。過去の傾向から知見がたまってきており、今後に可能性を感じていますね。
MZ:なるほど。チャネルやクリエイティブ、ターゲットを考える際にも役立てられているんですね。
山名氏:はい、そのほかの具体的な取り組みとしては、JAL公式のコミュニティサイト「trico(トリコ)」で新規アンバサダー候補を探すために「moribus」のデータを活用したいと考えています。
これまでは旅に関連するハッシュタグから検索して、直接DMでお声がけするというリクルーティングをしていましたが、「moribus」で得られるデータを使えば、JALのInstagramフォロワーの中からtricoと親和性が高そうな人を効率よく探すことができるはずです。
また現在、ライトインフルエンサーを集めた組織体のような構想も進めています。我々が集めたいと思っているライトインフルエンサーとは、数千人~数万人のフォロワーがいる一般の方で、フォロワーとも積極的にコミュニケーションを取っていらっしゃる方と定義しています。この候補者を探すにあたって、「moribus」のデータが役立つと期待しています。
今井氏:Instagramは自分が好きなものを投稿するSNSですので、ユーザーのライフスタイルがわかりやすく表れます。実際に会ったことがない人同士が、ライフスタイルに共感してつながっていることが多いんですね。
この特徴から、旅行好きな方でつながるトライブはもちろん、旅行好きな方はこういうファッションが好きなど、相関するトライブを発見することも可能です。つまり、旅行好きを中心とした様々なトライブから、tricoに親和性が高く、リーチしきれていない層を新たに発掘し、ライトインフルエンサーを探すことも可能だと考えています。
Instagramの特色であるものの、人力では活用の形に落とし込めない“ライフスタイル”を可視化し、データ分析、検証、運用に活かすツールが「moribus」です。山名さんのように様々なデータと連携させることで、期待以上の結果が出てくるのではと、我々も楽しみにしています。
売り上げへの貢献を可視化する効果測定へ
MZ:Instagramでこれから取り組んでいきたいことはありますか?
山名氏:効果測定に注力していきたいですね。
先ほどお話したライトインフルエンサーによるアンバサダープログラムのような取り組みで、それぞれのインフルエンサーの各投稿がフォロワーにどのような影響を与えたのかまで分析できるようになるといいですね。AIを使って投稿のコメントの言語解析を行えば、どのようなコメントをした人に態度・行動変容が起きたのかを分析することができるはずです。
施策の売り上げへの貢献を可視化できれば、経営層に説明する時にも便利です。さらに、投稿にリーチした人のうち何%の人が態度変更し、何%の人の行動が変容したのかといった基準値のようなものを作ることができれば、マーケターは施策がやりやすくなるのではないでしょうか。
今井氏:我々としては、それぞれのお客様にあった導入活用のご支援ができればと考えています。山名さんはWebコミュニケーションの最先端の取り組みを数多く実践されています。そんな山名さんが理想とするマーケティングの世界観を実現できるよう、弊社のサービスや技術力をもって、これからもサポートできればと思います。