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ミツカンの新ブランド「ZENB」に学ぶ、パーパスドリブンな事業の立ち上げ方

ミツカン創業のルーツは「フードロス」の解消だった

新井:実は私、先日あるところで講演したのですが、その時に会場の方から「すると結局、企業は世界平和を考えて事業をしなければならないのか」と質問が来たんです。これは極端な意見だと思いますが、やはり一部には、社会貢献=お金にならないという考え方が根強く残っているのは事実です。そこで長岡さんに伺いたいのですが、ミツカンがこうした社会課題解決に貢献するような事業を始められたのは、元々そういう企業文化があったからなのでしょうか?

長岡:ミツカンの創業は江戸時代なのですが、実は元々日本酒を作っていたんです。そこで捨てられる酒粕から「三ツ版山吹」という酢を作ったのが始まりなんですよ。

新井:そもそもフードロスを解決したところからスタートしているんですね!

長岡:そうなんです。当時、酢といえば米酢でしたが、これは価格が高かったんですよね。そこで酒粕を元に酢を開発し、手頃に買える値段で販売したところ、いい香りで魚ともよく合うおいしい酢ということが広まりました。本社のある愛知県半田市から船に載せて、江戸まで運んでいったわけです。江戸前のお鮨はシャリが赤いのですが、あれは酢の色で、この山吹もそういうお酢なんです。

 ミツカンは元々、変革と挑戦の歴史というか、これまで本当にいろんな事業をやってきているんです。銀行やビール会社もやりましたし、ハンバーガー事業もやりました。安定したものがあるから、挑戦ができるのかもしれませんが、今回のZENBもそうした企業風土から生まれたと思います。

新井:素晴らしいですね。挑戦の歴史ということは、失敗も当然あったと思いますが、それでもチャレンジングな精神が砕かれない風土があるんですね。

長岡:そうですね、経営者であるオーナーがそういう精神をもっていると思います。そういう会社であることと、今回は「会社としてどういう方向を目指すのか」ということからスタートしているので、必ずしもトップダウンではなく、かといってボトムアップというのとも異なり、湧き上がってきたものなのでしょうね。

社会課題の解決を事業として企業が取り組むには

MZ:最後にブランドパーパスについて改めて考えていきましょう。今の新井先生の話にあったように、「社会問題を解決することはお金にならない」という風潮は残っていると思います。一方で、ひろもりさんがお話しされたように、企業は元々世の中を良くしようという思いで創業しているので、その理念を思い出して、「自分たちの会社でも社会問題を解決するような事業を作っていこう」とするタイミングを求めているケースもあるでしょう。この点について、新井先生はどのようにお考えですか。

新井:本音をいえば、近い未来のうちに、社会貢献や社会問題について企業がしっかり考えていかないと、ビジネスの土壌に乗れなくなる時代が来ると考えています。ただ、そこで「世界平和を考えないといけないか」と問われると、やはりちょっと違うと思います。一企業では不可能ともいえる、壮大な世界平和の実現を目指すのではなく、まず「自分たちなら何ができるか」ということからスタートし、「この課題に対してなら、私たちはこういうことができるよね」というふうにアプローチしていく。この点に関して、ひろもりさんはいかがでしょう?

ひろもり:社会課題の解決や、何かいいことをしようという気持ちも大事ですが、企業が何をすべきかという点でいえば、何でもかんでもできるわけではないので、まずは創業時のルーツに戻ってみることが必要だと思います。そうすると、「これができるのではないか」という発見や、「実際にこういうことをやってきたよね」という気付きがあるはずです。

MZ:ZENBでは、ブランドパーパスを決めるときに、どのような体制・プロセスで進められたのでしょうか?

長岡:今の新井先生とひろもりさんの話にもつながりますが、うちの会社の場合、社会貢献と事業はまったく個別にあるわけではなくて、「事業を通して社会貢献していく」ことが基本にあるんです。その2つはいつもセットで考えているんです。事業化に当たっては、プロジェクトメンバーはもちろん、会長も参加して議論を重ねました。あとはデザイナーやライターにもメンバーに入っていただき、ブランドの考え方や方向性、事業としての進め方をみんなで一緒に考えていったんです。だからというわけではないですが、やはり事業としてもブランドパーパスとしても、割と強いのかなと思っています。

新井:今後取り組みたい課題はなんですか。

長岡:やり始めると、いろいろな課題が出てくるので、毎日苦労の連続です。ただ、事業として成立しないと何の意味もないので、そこをどう継続していくか、いかにブランドメッセージをわかりやすく届けるかを常に考え続けています。

MZ:ありがとうございました。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

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MarkeZine(マーケジン)
2021/05/14 09:00 https://markezine.jp/article/detail/36171

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