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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

組織強化が成果につながる。マーケターに必要なチームビルディングの秘訣

マーケティングが進まない?まずは開発部門との「視点の違い」の理解から

社内ワークショップで気づいた、開発部門との視点のズレ

 マーケターとして「(商品の)提供価値の再定義による需要創造」を忠実に実行しようとすると、商品のポテンシャルを最大化するために「今までと見せ方をこのように変える」という「未来の捉え方の変化」を重視し、プランニングしてしまう。これはもちろん、需要創造という本来のマーケティング戦略の目的からすると、間違いではない。しかし、開発部門は別の観点を重視して、動いている可能性がある

 私がこのズレに気づいたのは、過去に同僚のPM(プロダクトマネージャー)やUXリサーチャーと一緒に、プロダクトフィロソフィーを再定義する社内ワークショップに同席させてもらった時だった。話を聞いていると、開発部門が「過去から現在」のワークを重んじる傾向にあるという発見があった。なぜこのような違いが生じるのか。なんとなく引っかかりを感じて、詳しくヒアリングをしてみた。

 結論はシンプルで、開発部門が行う商品・サービス開発にとってまず最も重要なことが、「継続的・安定的に供給をし続けること」だからであった。どんなに良いモノであっても、形が変わったり、急に穴が空いたりしたら、ユーザーや生活者を不安にさせてしまう。すなわち、商品を無理・ムラなく供給できる「安定性」や、利用する際に心理的な負担が少ない「安心感」、そしてその「連続性」が何よりも重要なベースの提供価値である、ということだ。

 恥ずかしながら、この時に私は初めて「再定義=提供価値を転換する」という考え方そのものが、開発部門にとっては不安材料になったり、一方的と感じられたりしていたことに気づいた。それを払拭しないまま進めていたから、コミュニケーションがうまく運ばなかったのだ。

商品ミッションの範疇でいかに良い仕事をするか

 またもう1点、商品やサービス(以下、総称して「商品」と呼ぶ)にとって普遍的で大切なことがある。商品そのものが元々達成しようとしている「商品ミッション」だ。

 商品ミッションとは、「商品そのものが社会に存在する意義・果たすべき使命」と言い換えられる。ファンシーな飲み物であれば「飲むことでポップで楽しい気分にすること」かもしれないし、健康用品であれば「健康な生活を必要な時にサポートすること」かもしれない。一般的に、時代の影響を受けづらく、中長期的に運用されるものでもある。

 マーケター視点で見れば、市場や欲求の変化に着目しながら「提供価値の変化」を規定するが、それは本来、商品ミッションの範疇におさまるべきものである。それを逸脱すると、認識がブレ、存在価値もわからなくなり、なんのためにその商品を使うのかが腑に落ちないので、ブランドが崩れて記憶にも残りにくくなる。

 そのためマーケターは、いかに「商品ミッションの範疇で、連続性を重んじて、新しい価値観を提示できるか」という非常に難易度の高い課題に取り組む必要がある。

あらたな価値提案を考える時の構造
あらたな価値提案を考える時の構造

「徹底的な伝言」で、プロダクトを尊重する意思を伝えよう

 2つの部門の考え方の違いを確認したところで、冒頭お話しした「マーケティング部門の役割」に戻りたい。もしマーケティング部門が「非連続な成長」を目指すことに躍起になっていたら、どうだろうか。開発部門側からすると、なんとなく不安に見えそうなことにお気づきだろうか? これは「連続」と「非連続」の思想の違いといった概念的な話ではなく、「人が動くか動かないか」という、実務上で深いロスになりうるポイントである。

 そして、このロスを実際に防ぐポイントは、仕組みの理解の一歩先にある。いかにマーケターの開発理解とそれを尊重する意思が、モノづくりに関わる全員、つまりPM(プロダクトマネージャー)やデザイナー・エンジニアに抜け落ちずに伝えられるか、ということだ。すなわち「相互理解と信頼関係の構築」の話である。

関係者間での「意思とスタンス」の伝言
関係者間での「意思とスタンス」の伝言

 どんなに渾身のプランニングをしたとしても、相手を尊重する意思を「明示」しないと、プロダクトの未来を本気で考えていることは伝わらない。開発部門も困惑して思うように動けないし、もちろん描いた未来に向かってなんて進んでいかない。ただ資料を説明して渡すだけでは、どこかでストッパーがかかってしまいうまく進まないことが往々にしてある。

 社内でうまく浸透せずプロダクトの内実が変わっていない状態で、商品の提供価値や外部に発信するメッセージ(外見)だけを変えようものなら、いつかどこかで商品の外見と内実にズレが生じ、ユーザーや生活者は敏感にそれを見抜く。するとユーザーは疑問や不信感を抱き、その商品を選ばなくなる。結果的に社内では組織的な溝が生まれ、マーケターへの信頼も崩壊していく。もちろんそれ以降、マーケターはポテンシャルを発揮できなくなる。

 このバッドシナリオを防ぐためには、徹底的に「伝言」をする。もちろん、実際には関与する全員に、マーケターの気持ちを伝えきることは極めて難しい。私自身も、何度も壁にぶつかった。代理店であればクライアントの窓口の宣伝部から、事業会社であれば窓口となるPMやブランドマネージャーなどから、本気で戦略を浸透させるために、その先にいる商品を作っている人たちに気持ちやスタンスを伝えてもらうお願いをしてみよう。

次のページ
「ちょっと斜め上」くらいの無理なきプランニングが結果的にうまくいく

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この記事の著者

久米 一平(クメ イッペイ)

久米一平 ピクシブ株式会社 マーケティング戦略室マネージャー(部長職)
早稲田大学法学部を卒業後、2010年に博報堂へ新卒で入社し、営業とマーケターを経験。コロプラでのマーケティング・プロダクト広報のマネージャーを経て、2019年より現職。pixivをはじめとしたクリエイターを支える10を超えるサービスのマーケティン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/07/08 08:00 https://markezine.jp/article/detail/36389

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