SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

業界キーパーソンと探る注目キーワード大研究

マスクを使った新しいファンマーケティング。ファンとバンドに活力与えたホルモンの新プロモーション術

 ロックバンド・マキシマム ザ ホルモン(以下、ホルモン)は2021年3月にニューアイテム“はじめてのマキシマム ザ ホルモン マスク 「ESSENTIALS」”をCDショップや飲食店などで販売。CDではなく、マスクを主体とした商品内容で、腹ペコ(ホルモンのファン)を中心に大きな話題を呼びました。本記事では、自身も腹ペコである副編集長がメンバーのマキシマムザ亮君に、バンドがマスクを売る理由、そして商品のプロモーション戦略に迫りました。

体調不良からのライブ活動休止、そしてコロナ禍。クリエイティブのスイッチを押すきっかけがなかったら、引退していたかも。

MarkeZine編集部(以下、MZ):今回は、2021年3月にニューアイテム「ESSENTIALS」を販売し大きな話題を呼んだマキシマム ザ ホルモン。その全楽曲の作詞作曲、バンドに関わるすべてのクリエイティブディレクションを担っている、マキシマムザ亮君に話をうかがいます。

 ESSENTIALSは、タイプの異なる2種類のマスク、2号店のラストCD、ファンが経営している飲食店などで使えるクーポンがセットになっており、これまでのアーティストでは考えられない商品内容でした。なぜこの形での発売になったのか、背景から教えてください。

マキシマム ザ ホルモンの歌と6弦と弟、マキシマムザ亮君
マキシマム ザ ホルモンの歌と6弦と弟、マキシマムザ亮君

マキシマムザ亮君(以下、亮君):ファンを喜ばすには、やはり新曲を発表して、ライブをガンガンやれたらそれが一番なんです。

 僕の脳内貯蔵庫には、たくさんの美味しい食材がいっぱい溜めてあり、そして新しい素材を求めて日々狩りにも出ているんです。しかし、そんな貯蔵庫の大事な食材を使って、手間暇かけて誰かのために調理する気分にはなれない精神状態によく陥るんです。

 早い話、ファンやそれ以外の人たちに「是非聞いてください!」って命を削って曲を作ることに、張り合いが感じられなくなって。

 昔から「自分が食べて一番美味しいものを作る」っていうのを常にモットーにしてきてるんですが、ここ数年は「もう誰にもあげない、大変な思いするくらいなら俺だけが美味しく食べる」って気持ちになりがちですね。でもそれ以上に「もっと俺を喰え!俺の方が旨いぞ!この野郎!」っていうクソガキのハングリー精神は歳とってもどんどん増していく。そのバランスに悩まされているんです。

MZ:新曲を作り、ライブをするまでにそれだけの悩みが常に付きまとうんですね。

亮君:貯金残高5,000円のアマチュア時代は、単純に「ヒットすれば、大金も入ってヒャッハー!」と、目先の報酬が張り合いにもなったんですけど、今はもう正直、生活の安定は勝ち取ったんで、引退して近所の小学生相手に娯楽で駄菓子屋さん経営しながら死んでいくのも悪くないんですよ(笑)。

 でも、やっぱ脳汁出る刺激と興奮を味わうためにバンドやってますから。ただ、僕、興奮の性感帯が普通のミュージシャンと違うところにあるんで(笑)、そのためにはそれなりの予算や人気がないと、僕が興奮するバカなアイデアを大きな形にできなくなってきてるんです。

 なので、ビジネスとして意識しつつ、バンド活動をしていくという、そのバランスが本当に難しいんです。そこで精神が崩壊して体調不良につながりライブ活動を休ませてもらった時期もありました。

MZ:楽曲を含むすべての制作に相当なパワーと予算を注ぎ込んでいるからこそ、ホルモンは不動の地位を築いてきたわけですね。では、なぜ今回ESSENTIALSを作ろうと思ったのでしょうか?

亮君:自分のクリエイティブのスイッチが入ってしまえば、無敵スター状態に変われるんですよ。YouTube企画のガチンコ ザ ホルモン シーズン2がそのスイッチでした。これがなかったら引退してたかもしれませんし、ESSENSIALSのリリースもなかったと思います。

亮君を救ったYouTube番組とは?

 バンドフランチャイズ制導入にともなう、コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)結成の軌跡に密着したYouTubeオーディション番組“ガチンコ ザ ホルモン~コッテリの継承者たち~”の続編。コロナ禍における、2号店メンバーへの懸念を解決し、#6と#7では、Mr.Childrenの桜井和寿さんやGLAYのTERUさんなど豪華アーティストがホルモンの新曲のワンフレーズを自分のメロディーで歌うなど、音楽ファンの間で大きな話題を呼んだ。

MZ:楽曲じゃなくてYouTubeでの番組配信がスイッチを入れるきっかけになったんですね。

亮君:ガチンコ ザ ホルモン シーズン2は、コロナ禍で積もりに積もった自分の中のモヤモヤを、全部エンタメに変えてやろうという思いで制作しました。ミュージシャンなら本来そのモヤモヤを楽曲にしろよってことなんですけど、そもそもミュージシャンがバンド解散する時とか、何か説明が必要なときって、文章でコメントを発表しますよね? 「方向性の違い!解散!」って歌った曲を発表しても、ネタとしてはオモロイけど、きちんと理解してもらうことを重視すると、文章や会見で伝えるのが手っ取り早いんです。

 その伝える手法を、YouTube番組としてドキュメンタリーとモキュメンタリーを融合させ、さらにそこに新曲のPRと新商品のPRも結びつけるという、新しいエンタメへの挑戦がしたかったんです。

 これまでも、ライブDVD内にゲームを作ったり、マンガとCDをセットにして販売したりと、音楽という軸はありつつも、音楽だけでは表現できないモヤモヤを別の手段で表現してきました。今回はYouTubeが自分の中のモヤモヤを一番わかりやすく表現できると思いました。

普通なアイテムに、普通じゃないスポットライトを。

MZ:ESSENTIALSの構想も、ガチンコ ザ ホルモンの制作を進める中で思い付いたのでしょうか。

亮君:YouTubeでの番組制作にはお金もかかりますし、再生回数で得られる広告収益だけではその制作費を賄えません。そのため、予算を確保する意味でも番組制作をする段階から何らかのグッズをリリースすることは決めていました。そして、番組の一番ピークに達するタイミングで、エッセンシャルなグッズの発売を発表しようと思ったんです。

MZ:エッセンシャルなグッズ、つまり不可欠なものとしてマスクをリリースするに至ったんですね。

亮君:実はマスク以外にも、水やティッシュ、お米など様々な生活必需品の選択肢がありましたが、いよいよあぶない匂いがするのでやめました(笑)。

 その中でマスクを選んだのは、コロナ禍でも楽しめる企画につなげられると思ったからなんです。すでにマスクを販売してるバンドは数多くいて、アーティストグッズとしては普通でした。その普通なものにどう、普通じゃないスポットライトを当てられるかを考えた結果、最初に始めたのが「腹ペコえこひいき加盟店」での先行販売です。

 「腹ペコえこひいき」というのは、加盟してくれた僕らのファンが働く飲食店などで、ファンがクーポンを加盟店に提示すると独自のサービスが受けられるシステムです。店側は腹ペコの来店で店のPRもでき、クーポンを回収すればするほど、バンドから特別なグッズがもらえます。

 そんな加盟店たちに、「コロナ禍でも一緒に元気を出してがんばっていこう」という想いから、ESSENTIALSの先行販売に協力してもらいました。通販であっさり販売するよりも、ファンのお店で特別に先行販売してもらうことによって、バンドとファン、そしてファンとファンの間にもつながりが生まれ、血の通った濃いアイテムにしたいという狙いがありました。

 そして、2号店のCDを単独で販売したり、サブスクで発表したりしても利益を上げるのは現状厳しいところです。そういった理由もあり、ラストシングルは本店のグッズと抱き合わせという形を取りました。

会員登録無料すると、続きをお読みいただけます

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

次のページ
アイドル商法にも見えた売り方の真意とは?

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
業界キーパーソンと探る注目キーワード大研究連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2021/06/11 17:00 https://markezine.jp/article/detail/36483

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング