MAを使いこなせるマーケターの市場価値
MarkeZine編集部(以下、MZ):前回の記事では、アドビがどのような顧客体験を理想として、どのように「Adobe Marketo Engage(以下、Marketo Engage)」をマーケティングに取り入れているのかを伺いました。今回は、多くのMarketo Engageユーザーと接し、かつご自身でもMarketo Engageを運用されている立場から、MA担当者の課題感に向き合っていきたいと思います。はじめに、MAの運用というと日々の業務は地味なイメージが強く、マーケターとしてやりがいやキャリアのビジョンを見つけにくいという方が多いように思います。
松井:そうですね、特にBtoBにおいてはマーケは営業の補佐役になってしまっているケースが多いので、その傾向は強いかもしれません。ですが、MAを活用して成果をあげ、社内外でマーケターとして自身のプレゼンスを上げている方はたくさんいらっしゃいます。
実際に、Marketo Engageを使って結果を出されているマーケターの方はどの企業からも引く手あまたです。日本と海外とでは温度感に違いがありますが、海外ではMarketo Engage Championの受賞はキャリアに大きな影響を与えます。それまで夢にも見ていなかったキャリアの扉が開かれて、活躍の場が一気に広がるのです。中にはサラリーが数倍になることもあるようで、Marketo Engageを活用して成果を上げ、それを社内外に発信でできているマーケターは、「まだまだここで働いてほしい」「どうしてもうちに来てほしい」と、社内外問わず市場で高く評価されています。
実は日本でも同様に、Marketo Engage Championの方々はみなさんキャリアアップされています。まず大きいのは、みなさん社内で評価が上がり、昇進・昇給されていることです。社外での活躍を社内の方が目にすることで、社内での影響力も大きくなっているようです。また、他事業部から「どのように成果をあげているのか具体的に教えてほしい」といった声がかかり、複数事業部でのMA展開につながったケースもあります。考えてもみなかった副業や転職の機会が出てきたり、独立してマーケティングコンサルタントとして活動されていたりと、活躍の場を確実に広げられていますね。
MZ:会社に貢献するというやりがいももちろんあると思いますが、ひとりのマーケターとしてそのような価値向上も期待できるんですね。
松井:はい、自社で成果を出して、社外のMarketo Engageユーザーへそのナレッジを共有したり、発信したりしていくことで、マーケターとしてのパーソナルバリューは必ず上がってきます。
虻川:私はまだ20代で、交流のあるユーザー様も若手のマーケターが多いのですが、MAを使うことで、若手社員も社内での自分の価値を高められると耳にします。社内で「〇〇さんはMAを使える人」と認識されるようになると、デジタルに明るく、顧客データを適切に扱える人として周囲からの一目置かれるようになりますし、さらに全体の課題解決やプロセスの改善に取り組めると社内での評価や期待は高まります。
毎日の仕事はきっと地味な業務の繰り返しですが、MAを正しく使いこなすことは自分の成長と評価に必ずつながると実感しているので、「マーケターとして一旗揚げたい!」という野望のある方は、ぜひ高みを目指して取り組むとよいのではないかと思います。
その施策は本当に“顧客との関係性構築”につながっているか?
MZ:松井さんと虻川さんはMA活用についてたくさんの優れた事例をご存じだと思います。成功事例を踏まえ、MAで成果を上げられているマーケターの共通点はなにかありますか?
松井:「MAで成果を上げられているマーケターの共通点」と聞いて、まず浮かんだのは、顧客との関係性構築について“本質的な”取り組みができているか否かです。
私自身の経験からお話しすると、前職で勤めていた企業でメールコミュニケーションの在り方をゼロから設計し直したことがあります。セミナー集客マシンから脱却し、メールをお客様の行動を促す最大のチャネルとして、よりよい関係性の構築につながるように変えていきました。
MZ:どういった課題感から取り組まれたのですか?
松井:当時は多い時は週に3~4回、同じ人に集客メールを配信してしまっている状況で、配信する立場としても心苦しい気持ちがありました。そこで、まず最初に「1人の人にメールをお送りするのは週に2回」というルールを作りました。
次に、イベントの集客のためだけのメールを制限し、集客中心のコミュニケーションから、情報提供型のメールコミュニケーションに切り替えました。すべてのメールにテーマを設定し、そのテーマにまつわるブログ、ホワイトペーパー、セミナー案内を掲載することで、お客様自身でインプットする情報の量とかけられる時間を選択できるようにしたのです。ブログを読むのは3分、より詳しい情報が得られるホワイトペーパーを読むのは5~10分、じっくり理解を深めるセミナー受講は1時間という具合ですね。
興味のあるテーマをご案内しても、忙しい中メールを開き、そこからコンテンツに触れていただくのにはやはり工夫が必要です。ライトなものから、たっぷり情報を詰め込んだものまで、受け手のその時の状態に最適なものを選択していただくようにしました。
担当領域だけに限定せず、自分のバリューを発揮していく
MZ:集客メールの配信を制限するとなると、セミナーの企画担当者との衝突が起こってしまいそうです。
松井:そうですね。私の場合は、メール配信における社内のコミュニケーションから変えました。たとえば、「イベントを開催する1ヵ月半前までには配信依頼を下さい、依頼をいただいたら1ヵ月前までに1回目のメールを、2週間前までに2回目のメールを送ります。集客の数が目標に及ばなかった時のリカバリーは我々が担保するので、配信日はコントロールさせてください」と伝えました。内容がセミナー告知のみのメールを配信するのは、1つのセミナーにつき2回までとして、一連のルールを決めたのです。
すると、1ヵ月半前までに依頼しないと集客メールを送ってもらえなくなるので、セミナーオーナー側も余裕をもってプランするようになりました。開催直前になって集客が足りず、「明日このセミナーの集客メール送ってくれない?」と私がまったく知らないセミナーの集客依頼が来るようなこともなくなりましたね。セミナーもコンテンツのひとつとしてメールコミュニケーション全体を設計し、計画的に配信できるようになったことで、配信のスケジュールが常に1ヵ月先まで決まっているという理想的な状態を作ることができました。
メール配信担当者の中には、自分の日々の業務に対して“依頼される仕事”のような感覚を持っている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、決してそうではなく、メール配信でもチームを先導して、顧客とのコミュニケーションを作り出すことはできます。マーケターとして成果を上げることもできるので、諦めずに自分のバリューを発揮してほしいですね。
虻川:松井がメールコミュニケーションの在り方をゼロから設計したように、ユーザー様のお取り組みを見ていると、SFAのオペレーションやデータ整備の仕組み・ルール作りなど、データ活用の基盤を整えるところから取り組まれている方が多いように思います。
具体的な例として、とあるSaaS企業では、インサイドセールスが見込み客の行動に即した適切なタイミングでフォローできていないという課題がありました。そこで、SFAとMAを連携させ、SFA上での顧客情報の重複を限りなく減らす仕組みを構築。加えて、インサイドセールス担当者のアサインルールを自動化することで活動量を最大化させ、商談件数を大きく伸ばされました。
また、とある人材業界の企業では、デジタル広告の就業への貢献度が測定できないという課題をお持ちでした。そこで、広告データ・MA・自社のデータベースを連携させ、広告効果を一気通貫で測定できる環境を整えられました。これにより、効率的な媒体選定が可能になったそうです。
自分の担当領域に限らず、MAに蓄積されたデータを使って様々な課題の解決を考える。部分最適ではなく、全体最適のためにMAのデータを活用することを考えているマーケターが事業に貢献する形で成果をあげている印象がありますね。
必要なマーケティング施策を逆算して考えよ
虻川:私は、現在アドビでMarketo Engageを運用している身として、やみくもに施策を立ててMAを運用するのではなく、必要なマーケティング活動を逆算することの重要性を感じています。
MZ:どのように逆算するのか、考え方を教えていただけますか?
虻川:まず前提として、アドビのマーケティングは四半期ごとにプランニングをしています。期末に全体の数字を振り返り、それをもとに期初に目標と計画を立て、期中はプランの軸をあまりぶらさず施策を実行していく、という流れです。
次に、MA活用に限らずとも、実行した施策を振り返る時は、結果に影響した要素を分解して考えないと、どこをどう改善すればいいかわかりませんよね。その際、アドビが重要視しているのが「チャネル」です。Marketo Engageでは、ソーシャル広告、リスティング広告、SEO、スポンサードイベントなど、設定している各々のチャネルでどのくらいの人がコンテンツにタッチしたか、何件の商談を創出できたのか、そのうち何件が受注につながったかがわかるようになっています。ですので、目標値から「受注→商談→新規リード獲得」と必要な数字を逆算することができるのです。
期末に振り返った数字をもとに、「このチャネルから〇件の商談を創出する」と目標を立てて、そのために必要な施策の量や内容を逆算して考えていく。期末の数字の振り返り、期初の施策の計画、期中の施策の実施の3段構えでPDCAを回していくというのが、現時点で私のMA活用の最適解です。
松井:チャネルごとに結果を分析して、必要なマーケティング施策をプランできるというのはMarketo Engageならではの特徴で、これができるのは、Marketo Engageで実行するすべての施策にチャネルが設定されているからです。
もう少し詳しく説明すると、お客様ひとり一人に複数のタッチポイントがありますが、すべてのタッチポイントが「施策(プログラム)」で管理されていて、すべての施策を「チャネル」別に見ることができます。これができるから、「このチャネルは流入からの商談化率が高い、コンテンツへの反応がいい」などと分析して、チャネルごとに必要なリード獲得の施策を逆算することが可能になる。これがMarketo Engageの素晴らしいところだと思います。
社内での価値向上のためにマーケターができること
MZ:最後によくMA活用の課題としてあがる“営業部門との連携”について、これをクリアできている企業のマーケターはどのように取り組まれているのでしょうか?
松井:マーケと営業の間にある壁は、どうしても多くの企業で問題となってしまっています。ですが、マーケティングで売り上げに貢献するためには、やはり営業の方との連携が不可欠です。
ですので、私は「効率化やテクノロジーが好きな営業の方をまずは1人捕まえるとよい」と、よくアドバイスします。これも私自身の経験に基づいたものですが、ロジカルに業務を効率化するのが好きな営業は必ず社内にいらっしゃいます。そういった方を捕まえて、マーケがMAを使って日々実施していること、数字やデータの意味を説明すると、興味を持って営業活動に取り入れてもらえる。1人でも営業を巻き込んで一緒に成功体験を作ることができれば、それが営業とマーケの間にある壁を崩す突破口になるはずです。
また、営業の方も日々商談活動をしている中で、案件が少なくて困っている瞬間があります。そんな時に、「マーケがいると助かる」と思ってもらえるようなことを協業できるとよいのではないでしょうか。
虻川:Marketo Engage Championを受賞されたマーケターの方々のお話しを聞いていると、MAの有効性を現場で体感してもらう、実績で示すことが大事なのだな、と勉強になることが多々あります。
たとえば、ある不動産企業では、最初はなかなか営業部門にマーケティング施策やMA運用のメリットを理解してもらえなかったそうです。そんな中でも、MA担当の方は地道にかなり細かく見込み客のスコアリングをチューニングされていました。すると、一定のスコアに達した見込み客の成約率が圧倒的に高くなり、MAのデータの有効性や確実性を実感することが営業部門でも増えていきました。そしてある日ダッシュボードからスコアを1つ外したところ、営業部長から「あのスコアがないと困る」と言われ、その時にマーケティング施策が営業活動に欠かせないと認識されていることを感じたそうです。この話を聞いて、データと実績で有効性を示すのがいかに重要かを改めて実感し、感銘を受けましたね。
松井:BtoBの場合は特に、案件発掘を自ら行い、足で稼ぐ営業がよしとされてきた時代が長いので、どうしても営業>マーケといった力関係になってしまう企業がまだまだ多い印象があります。ですが、これからの時代、営業が頑張れば売り上げが伸びるという状況を維持していくのはなかなか難しいのではないかと思います。
理想は、MAをコミュニケーションツールとして、マーケと営業がフラットな関係性で一緒に売り上げの最大化に向けて動ける状態を作ることですね。お互いが補完しあって、成功への道筋を立てられる組織であれば、マーケターも活躍できるはずです。コミュニケーションツールとしてMarketo Engageがどのように使えるか、という視点でもユーザーさんからノウハウを教えていただき、それを共有することで、社内でのマーケターの価値向上に貢献できればと思います。
【マーケティング施策の見通しを立てるテンプレート】
アドビが社内で実践しているワークシートをもとに、チャネル単位で必要なマーケティング施策をプランニングできるテンプレートをご用意しています。自由に変更・修正できるため、自社独自のシートを作成することが可能です。ご興味のある方はこちらからダウンロードください。