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特集:戦略実行を支える、強いチームの作り方

悲しいかな、これが現状なのです。未だマス×デジタルが進まない広告現場の突破口

大企業ならではのジレンマ

 大きな広告主であるほど、宣伝部とデジタルマーケティング部が反目しているケースを目にします。それぞれが自分たちの予算を削られまい、自分たちの存在感を低められまいとして部分最適に走ってしまいがちなのです。また、それぞれの枠の中で勝手に外部と接続して、それぞれで予算を消化し、それぞれでクリエイティブを発注していたりもします。たとえばマスチームが外部スタッフとミドルファネルのWebCMを企画制作しても、LPや検索連動型広告、リタゲバナーなどの実行はデジタルチームが別の外部スタッフに発注していたりして、運用も評価もバラバラにやっている、など、デジタルの中でさえも連携が取れていなかったりします。

 もともとデジタルマーケティング部はLP制作、検索連動型広告やディスプレイ広告の運用など、成約に近い領域を担うところから始まっています。スコアが可視化できるので、成果が見えやすい強みがあって、どんどん存在感を増してきています。そして、マス系の人たちからずっと格下扱いされてきた積年のウラミのようなものがどこか澱となって積もっているんですよね。

 一方、宣伝部が担うテレビCMはWeb系に比べ莫大な予算を費やす、いわば花形。ですが、成果を可視化しにくい弱みが指摘されるようになってきました。役員会議でエビデンスを出せなどと難題を突きつけられて四苦八苦するのは主に宣伝部。宣伝部が身を守るためにテレビCMは「ブランディング」に寄与するもの、といった論法で煙に巻こうとすることは珍しくありません。

 ある大きな広告主から外部CD(クリエイティブディレクター)としての参加依頼があり、とても楽しみにしていました。楽しみだった大きな理由は、その広告主がマス部署とデジタル部署を一つにすると発表した直後だったからです。「マス」「デジ」統合コミュニケーションが何の制約もなくできる環境が整っているはず、と思いました。ところが、入ってみると両者の接続は何一つなされてはいませんでした。その発表は単なるポーズみたいなものだったのでしょう。

 こんな状況が続いていてはフルファネルによる全体最適など目指せません。それに、昨今ではCX(カスタマー・エクスペリエンス)の視点が重視されていますから、商品開発や営業部署などとの接続も今まで以上になされる必要があります。

 ますます各部署が蛸壺化してしまう状況に問題意識を持つ人も多いですが、各部署発でこれを解決するのはなかなか難儀。エージェンシーも「両対応」の人材を育成すべく、マス系のクリエイターをデジタル部署に出向させるなど、教育を急いでいます。しかし、広告主側が社内で接続を起こしている状況では、根本の解決に寄与することは難しいと言えます。僕のマーケティング・アドバイザーとしての役割としては、いわば、フルファネルのトップからボトムまで現場を覗き回って接続を点検したり、復旧させたり、といったことも大きいのですが、この紛争地域に巻き込まれるととても動きにくく、成果を出しにくい。ですので、「マス」「デジ」統合に何より求められるのは、経営層の強力なリーダーシップによる、全体最適を図れる組織体制づくりということになります。

組織のあり方が成果に直結することを体感した例

 僕がマーケティング・アドバイザーとして支援している積水ハウスは、集客コミュニケーションの「マス」「デジ」を統合、フルファネル化したことによって、KPIに設定しているWeb経由での展示場への来場予約件数が前年比で6倍超を達成しました。これはコロナ禍にあっても年々伸び続けています。この成果をなし得た背景には「マス」「デジ」各部署のいわば「仲良し力」がありました。全員が全体最適を目指せたのです。さらに、積水ハウスは組織体制も更新し続けています。今年に入ってからは、コミュニケーションデザイン部として、マス、デジ、戦略広報、CX、などを一枚岩としました。

 全体最適を目指せる組織体制は、「マス」「デジ」統合に欠かせない背骨、骨格です。さらに言うなれば、旧来のマス的手法で十分、あるいはそちらの方が成果に繋がりやすいという場合もあるでしょう。「マス」「デジ」統合といったテーマももはや当たり前過ぎて今さらな感があります。また、PRやアクティベーションなどをメインとしたコミュニケーション設計もあり得るはずです。いずれにしても大事なことは全員を図れる組織体制づくりということになります。が全体最適を目指せる組織体制になっているか否かです。

 これは言い方を変えれば、マーケティングに携わる者全員が「顧客体験」というポイントで、同じ目線で議論できる環境がある、ということでもあります。

 そしてこれを生み出すものは、トップの強いリーダーシップによる現場へのコミットメント。部長からの上申を受けるだけでなく、課長級以上が出席するマーケティング会議を定例化すべきと思います。そうすれば体制のほころびや、新しい打ち手も見えてきます。

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言語の共通化がスムーズな組織連携の第一歩

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この記事の著者

小霜和也(コシモカズヤ)

マーケティング・アドバイザー/クリエイティブ・ディレクター/コピーライターノープロブレム合同会社/株式会社小霜オフィス代表 1962年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、博報堂入社。1998年退社。現在クリエイティブディレクターとして広告クリエイティブの企画制作、またマーケティングアドバイザーと...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/11/01 16:17 https://markezine.jp/article/detail/36769

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