ロングセラーほど、好きになってもらうための仕掛けを
講演の後半では、ここまで紹介してきた施策を踏まえて、改めてロングセラーブランドを“今化”するためには何が必要となるかが語られた。
「ロングセラーブランドの機能的な価値はほとんど認知されているので、それをわざわざコミュニケーションで伝えるのは非効率です。それよりも、ブランドのことを好きになってもらうことにフォーカスすることが大事だと思います」(加藤氏)
前述したV6の施策では、世界平和のようなあまりにも大きなテーマを語るとブランドと乖離してしまうため、身の回りの平和という、身の丈の少し上くらいのビジョンを語ることで、これまで築き上げてきたブランド像から逸脱しすぎずに印象に残るメッセージを発信することに成功している。こうした匙加減は、加藤氏が細かくディレクションしているそうだ。
「“ピノらしさ”とは何かというのはなかなか言語化しづらいもので、我々メーカーの中の人間にしかわからない微妙なニュアンスがあります。ここで大切なのは、以前にやってきたことを否定せず、これまで長くやってきたことの延長線上で考えていくということだと思います。そうした視点から、尾上さんたちにもコピーなどを何度も調整してもらいました」(加藤氏)
一方で、尾上氏は話題化を通じてブランドの鮮度を高めるためには、時に大胆なアプローチも必要になると語る。
「ロングセラーは空気のような存在になりがちなので、なりふり構わず話題になるものに乗っかっていくことが大事な時もあると思います。ブランドがもっているDNAの中から、時代に合いそうなものを探り、少しだけ冒険をするというのがやり方の一つではないでしょうか」(尾上氏)
加藤氏も、ブランドらしさを守りつつも、強力なコンテンツやトレンドに参加していくことが重要であると賛同。自らムーブメントを作っていくというよりも、「うまく乗っかっていく」姿勢を大事にしていると明かした。

ブランドをともに育てるパートナーとして
ロングセラーブランドゆえに確立されているブランドらしさを保ちながらも、大胆なアプローチを行ってきたピノ。これらを両立できた背景には、加藤氏と尾上氏をはじめとするチームのメンバーが、“クライアントとエージェンシーはブランドを育てるパートナー”と捉え、密なコミュニケーションを取りながら企画をしてきたことも大きい。
「加藤さんは、連絡の頻度がとても高く、『もっとこうできないか』『あれはこうだと思う』という意見をたくさん出してくれました。そこに意外な発見があったり、制作チームの中でブランドの理解が深まっていったりしました」(尾上氏)
「意見を交わす中で生まれるアイデアもたくさんありましたよね。とても良い関係性でやれたことが、成果にもつながっていると思います」(加藤氏)
より多くの人に愛され、再喫食につなげるため、様々なチャレンジを続けるピノ。そのブランド活動に引き続き注目したい。