ロングセラーブランドには、新たな刺激を与えて鮮度を保つ“今化”が必要
発売から45周年を迎えるアイスのピノは、日本ではほとんどの人が知っていると言っても過言ではないロングセラーブランドだ。一口で食べやすい、誰かとシェアしやすいといった機能面の認知は100%近い。
ただ、その売上はライト層に支えられている面もあり、一部のヘビー層を除くと「1年に数回食べる程度」という顧客が多いという。森永乳業でピノのコミュニケーションを担当する加藤雄大氏は、ブランドとしての鮮度減退、熱心なファンが少ないといった課題に向き合っていると明かした。
森永乳業では、顧客にどの程度その商品が浸透しているかを把握し、ブランドが置かれているステージを下の図のように区分し、そのステージごとに最適なコミュニケーション戦略を実行している。
「ピノは、一番右のロングセラーブランドというステージになります。ここでは何が必要になるかというと、ブランドの継続性や一貫性は保ちつつも、新たな刺激を与えてブランドの鮮度を保っていく“今化”です。そうしたテーマのもと、コミュニケーション戦略を策定・実行しています」(加藤氏)
体験型イベントの成果と見えてきた課題
ピノは「一粒のしあわせ」をコンセプトとして、これまでも様々なコミュニケーション活動を行ってきた。昨年までの数年間は、10代後半~20代をターゲットに、体験とSNS、PRを組み合わせて、情報量の最大化を狙ってきた。若年層をターゲットとしたのは、子どもの頃は親が購入して冷凍庫に入っていたピノを食べていたが、成長するにつれて自身ではピノを購入しない時期があり、その年代の底上げを図りたかったことと、SNSを活用している世代であり情報拡散の起点になり得ると考えたためだ。
具体的な施策の一例としては、2015~2017年に東京と大阪で「pinofondue café(ピノフォンデュ カフェ)」という店舗をオープン。チョコレートソースやマシュマロクリームでピノをデコレーションする“ピノフォンデュ”が話題となり、SNSでも拡散された。
また、2018年にはアートと食、そして空間を融合させた体験型イベント「pinofantasia(ピノファンタジア)」を東京で開催。チームラボとタッグを組み、食べるアート体験として五感で楽しめる空間を用意した。
「イベントに来ていただいた方々にはとても深い体験をしていただきましたし、メディアにも多数取り上げられ、ピノの話題量は増えました。ただ、年に1回程度のイベントでは一過性の盛り上がりにとどまってしまうのと、5年間イベントを続けたことで、ニュースの鮮度が低下してきたこともあり、2020年からは電通の尾上さんと別のアプローチを始めることになりました」(加藤氏)
2020年からは、ターゲットをピノのメイン購買層である20~40代の女性へと拡大し、ターゲットが“再喫食”することをビジネス課題と設定。ブランドに刺激を与えてファンを増やす“今化”を実現するため、一過性ではなく年間を通してニュースを作っていくことで、世の中のピノの話題量を増やしていくことを目指した。
続いて加藤氏、電通の尾上永晃氏から具体的な取り組み事例として、2020年の「ピノ やみつきアーモンド味」の発売時期のプロモーションと、2021年のキャンペーン「アイスと平和」の舞台裏が紹介された。