「サービス」と「モノ」のマーケティングはどう違う?
今回紹介する書籍は『サービス・マーケティング -- コンサル会社のプロジェクト・ファイルから学ぶ』。著者は、黒岩健一郎氏と浦野寛子氏です。
黒岩氏は青山学院大学の国際マネジメント研究科で教授を務める人物。苦情対応のマネジメントや市場志向の経営を専門分野とし、共著書に『マーケティングをつかむ(新版)』(有斐閣)や『顧客ロイヤルティ戦略:ケースブック』(同文舘出版)などがあります。
一方の浦野氏は、立正大学の経営学部で教授を務めています。消費者行動を専門分野とし、分担執筆した『1からのデジタル・マーケティング』(碩学舎)は「日本マーケティング本大賞2019」の大賞を受賞しました。
本書では「サービス・マーケティング」を、金融業や情報通信業、宿泊業のように無形のプロダクトを提供する場合のマーケティングとして定義。有形プロダクトとの対比を通じサービスの持つ特徴を明らかにした上で、オリエンタルランドやザ・リッツ・カールトンなどの各種事例から顧客満足度向上のヒントを紐解きます。
本書においてまず興味深いのは、多くの人にとって改めて意識することが少ない、有形の「モノ」と無形のサービスの違いが明示されていることです。両者の間にどのような違いが見られるのか、その一部を紹介します。
サービスの同時性と変動性を活かしたオリエンタルランドの事例
浦野氏は、両者の違いの1つとして「同時性」を挙げています。モノは生産されてから消費されるのに対し、多くの対人サービスは生産と消費が同時に起きると指摘。提供者と顧客が揃って初めてサービスの消費がなされるのだと述べています。
また、変動性もサービスならではの特徴であると浦野氏。提供側・消費側の人的要因により、サービスの品質は同一たり得ないと語っています。そのような特徴を持つサービスのマーケティングにおいて、コアとなるフレームワークが「7P」です。
Product(プロダクト)
Price(プライス)
Promotion(プロモーション)
Place(プレイス)
People(ピープル)
Process(プロセス)
Physical Evidence(フィジカル・エビデンス)(p.63)
黒岩氏はオリエンタルランドの事例を7Pに沿って解説。同社は特に「ピープル」「プロセス」「フィジカル・エビデンス」において強みを持つと述べています。たとえば、東京ディズニーランドの「ジャングルクルーズ」というアトラクションにおいて、参加者の反応を見ながらキャスト(従業員)が話す内容を変える手法は、サービスの同時性や変動性を活かした効果的なプロセスであり、「参加者に唯一無二の体験を提供している」といいます。
苦情対応に満足した顧客の再購買率は高い
提供品質が変動するサービスは、時に人的なミスなどの失敗をともないます。顧客の体験を損ね、不満を引き起こす失敗に対し、黒岩氏は「サービス・リカバリー」の重要性を強調しています。
黒岩氏によると「サービスの失敗に直面して苦情を言い、サービス提供者の苦情対応に満足した顧客の再購買率は、サービスの失敗に直面しなかった顧客の再購買率よりも高い」とする調査結果があるといいます。
事例として紹介されているビル・メンテナンス会社の四国管財では、従業員がボイス・メールを通じ「ラッキーコール」として苦情を迅速に報告。苦情のネガティブイメージを払拭し、報告を奨励する仕組み作りが顧客からの信頼獲得につながっているというのです。
本書ではほかにも、サービスの脱コモディティ化や「NPS(Net Promoter Score)」を指標にしたブランド価値向上など、サービス・マーケティングの様々な手法を紹介しています。無形のサービスを提供する企業のマーケターや、今後そのようなビジネスを新たに展開しようと考えている方は、商材の特徴や戦略を体系的に学べる1冊として、手に取ってみてはいかがでしょうか。