ミッション・ビジョン・バリューとパーパスの関係
――ミッション・ビジョン・バリューを設計していく中で、パーパスが必要になるというのはどういうことでしょうか。
私たちが考えたフレームワークでは、ミッションをオリジナルな存在意義、ビジョンはワクワクする未来、バリューは企業固有の価値観・行動パターンと定義しています。図表1を見ていただくとわかるのですが、これらの配置がとても重要なのです。

ミッションの延長線上にあるビジョンという北極星を目指し、経営者が自社のバリューを考え、その価値観・行動パターンでPDCAを回していく。これにより、ビジョンに少しでも近づけていくことが経営において重要になります。そして、ビジョンに向かって正しいバリューを作れているかどうかを判断するための航海図がパーパスになります。
パーパスとミッションを混同される方も多いですが、この図を見ると明確に違うのがわかると思います。ミッションは内向きなもので、パーパスはミッション・ビジョン・バリューの配置が問題ないか、全体を俯瞰するためのものです。
パーパスという航海図があると、ビジョンを達成するためのバリューが策定しやすくなり、そしてパーパスに共感した優秀な人材も入ってきやすくなります。M&Aを行う際の判断基準にもなります。
「うまい、やすい、はやい」の源泉を探る
――では、田中さんがCMOを務める吉野家では、どのようにパーパスを策定したのでしょうか。
6年ほど前に「吉野家らしさとは何か」を議論したのが最初です。吉野家では2025年までの長期ビジョン「NEW BEGINNINGS 2025」と「吉野家らしさとは何か」を考える2つのプロジェクトを立ち上げました。
「NEW BEGINNINGS 2025」では、ひと・健康・テクノロジーの3つのキーワードで新しい市場創造・価値提供を実現し、飲食業を再定義するビジョンを打ち立てました。このビジョンのもと、シニアや女性が働きやすい環境作りや食べれば食べるほど健康になるメニューの開発、テクノロジーを活用した店舗の効率化などに着手してきました。
そして、もう1つのプロジェクトでは吉野家のパーパスを様々な形で議論してきたのですが、行きついたのは「うまい、やすい、はやい」でした。この言葉はよくできていて、吉野家はおいしくなければ世に商品を出さないし、相対的に安いものを提供してきたし、1,200以上の店舗のオペレーションを改善することで早さを追求してきました。
また、吉野家はビジネス以外のところでも「うまい、やすい、はやい」を体現していました。たとえば、震災時に「オレンジドリーム号」というキッチンカーが被災地に向かい、被災者の方々に牛丼を提供してきました。また、新型コロナウイルスの影響で臨時休校となった影響を鑑み、吉野家ではお子様向けの食事支援をいち早くスタートしました。このように、すべての行動が「うまい、やすい、はやい」に基づいた「日常食を途絶えさせない」精神に紐づいているのです。
そして、私たちはこの「日常食を途絶えさせない」精神がどのように構成されているのかを整理しました。具体的には吉野家の創業者が作り上げてきた暗黙知を一度形式知に表層化し、徹底的に社内に周知しました。そうして、吉野家らしさを作ってきた要素を社員が理解し、体現することで、文化になっていくと考えていました。