言行一致かどうかを客観視する
――会社で暗黙知となってしまっているものを形式知に表層化するのは、パーパスを策定・浸透させていく上で重要だと考えています。その他に、企業がパーパスを考える際に重要なのはなんだと思いますか。
言行一致を客観視することがとても重要だと思います。「人に優しい商品を作っています」と謳っている企業が実際には人に優しくない商品を作っていたら、今の時代はすぐに明らかになります。Z世代や投資家の目線も厳しくなっているので、自社の言っていることとやっていることが一致しているかを見極めないといけないと思います。
――言行一致を客観視するためにできることはありますか。
私は9boxというフレームワークでビジョンや戦略、戦術などに一貫性があるかを整理しています。たとえば、戦略を考えたあとに組織を考える必要があるのに、企業によっては組織から考えてしまいます。9boxでは、ビジョンを起点に戦略、戦術が一貫しているかなどが検証できるので、自社の言行一致を確かめるには役立つと思います。
また、社内の様々な組織が連携してコミュニケーションを行うことが、言行一致な状態を作るには重要です。組織を人体に例えると、コミュニケーションは血流です。血流が滞れば、様々な病気のリスクが高まるように、組織のコミュニケーション不足は新たな課題をもたらします。

組織が持つDNAからパーパスは発見できる
――社内外にパーパスを根付かせていくには、どういった取り組みが必要になると思いますか。
とにかく経営者などが言霊になるまで、ミッション・ビジョン・バリュー、そしてパーパスを伝えていくことが重要だと思います。会社によっては毎朝ミッション・ビジョン・バリューを唱和しているところがあったりしますが、パーパスを根付かせていくには、こういった心理学的なアプローチも効果的です。
パーパスが明確になれば、それに共感した人材が集まるようになり、定着するため採用活動費や離職率が下がります。また、マーケティングに関しても広告・宣伝コストの削減にも繋がりますし、利益にも貢献します。パーパスドリブンであることは、あらゆるコストに良い影響をもたらすので、頻度高くパーパスを伝えていく機会・場面を用意することが非常に重要です。
――では、最後に今後のパーパスに関する展望を教えてください。
これからの時代、「自社が儲けることができれば良い」では厳しくなります。パーパスの概念は日本に昔からありました。それが近江商人の経営哲学として有名な「三方よし」です。売り手によし、買い手によし、社会によしというのが改めて求められるのだと思います。そのためにも、ビジョンを達成したときに誰を助けたいか。自分たちの商品・サービスで社会の何に貢献したいかを考えることが重要です。
また、今後は「トヨタイムズ」のように、企業の性格やパーパスを発信していくオウンドメディアの活用が求められてくると思います。なぜなら市場に語られる物語、つまりナラティブを企業が持っているかどうかが今後重要になるためです。
そして、このような活用を進めるには、企業の歴史や資産の把握が欠かせません。パーパスは作るものではなく、組織のDNAを削り出すことで発見できるものだからです。このインタビューが、自社に眠るパーパスを掘り起こすきっかけとなれば幸いです。