KPIツリーを補完する2つの視点
CVRの改善を考える上で、KPIツリーに分解しにくい要素にも目を向ける方法がないものでしょうか?
この悩みは、2017年に『いちばんやさしいコンバージョン最適化の教本(インプレス)』を執筆したときから認識していたのですが、当時は具体的な対策を提示することができませんでした。そこから数年経ち、さまざまなCRO施策を実践する中で、この課題を補完できそうな新しい気づきがありました。
先ほどCVRをKPIツリーに分解する際には、購買プロセスなどユーザーの行動に着目するのが考えやすいと述べました。この方法では「施策を当てるべき場所」にあたりを付けることができますが、一方で「どのような施策を当てるべきか」についてはわかりません。
直帰しているユーザーに、どのような施策を当てれば直帰を防ぐことができるのか。これはKPIツリーからは見えてきませんので、「なぜユーザーが直帰しているのか」を考える必要があります。そうすると、自然とユーザーの心理や状態に着目することになります。
KPIツリーでは見えないユーザーの状態を考える上で重要になるのは、次の2つの視点です。
・蓄積的な要素の視点
・衝動的な要素の視点
それぞれの視点について見ていきましょう。
視点1:蓄積的な要素の視点
「蓄積的な要素」とは、たとえば「サイトの使い方の習熟度」や「商品・ブランドの理解度」のようなものとイメージしてください。ユーザーが、サイトの使い方や商品の良さ、ブランドのこだわりなどを一度理解・納得すれば、その後もその状態が継続します。さらに便利な使い方や商品の良さに触れると、以前の経験に積み重なるように蓄積されていき、少しずつCVRに良い影響が出てきます。
蓄積的な要素をユーザーの中に積み重ねていくには、一定の適切な順序があります。学習と同じで、いきなり複雑で難しいことは学べません。簡単なことから少しずつ階段を上がっていくようにすれば、より経験を蓄積してもらいやすくなります。
ですので「習熟度や理解度がどの段階のユーザーに、次はどのコンテンツを当てていけばいいのか」と発想していくことで、CVRの改善施策が考えやすくなります。
KPIツリーではCVRを行動のプロセスとして分解しましたが、「各プロセスにおいて蓄積するべき要素はどのようなものがあるのか」「そのためにユーザーにどのような行動を取ってもらうといいのか」を考えることで、KPIツリーだけではわからなかった施策をイメージしやすくなるのです。
視点2:衝動的な要素の視点
もう1つはユーザーの「衝動的な要素」です。蓄積的な要素との違いは、衝動はCVRに悪い影響を与えることもあるという点です。衝動的に買いたくなる場合もありますが、逆に衝動的に離脱する場合もあります。前回ご紹介したフリクションは、衝動的な離脱を生む要素と言えます。
ユーザーは、サイトに訪問している時点で会社なり商品なりに一定の関心をもっているはずです。ただし関心の強さには振れ幅があり、関心がそこまで強くなければちょっとしたフリクションで離脱してしまいますし、ある程度関心が強ければ多少のフリクションがあっても頑張って乗り越えようとしてくれます。
たとえば、サイトの習熟度が低い段階のユーザーに商品の理解度だけ高めようとしても、目的のコンテンツにたどり着けなかったり、サイトの使い方に気が取られてコンテンツの内容が十分に伝わらなかったりしやすくなります。
するとユーザーは「面倒だな」「よくわからないな」といったネガティブな衝動が働き、結果として離脱されやすくなります。ユーザーが一定の関心をもって行動してくれている最中はあまりじゃまをしないほうがいいでしょう。その後、一定のフリクションを感じたタイミングでアプローチできれば、「面倒だな」という衝動を和らげたり、逆に「ちょうど困っていた、気が利くな」というポジティブな衝動に転換したりといったことができるようになります。
このあたりの考え方は、実店舗で気が利く店員さんの接客と非常に似ています。これまで、オンライン上の体験においてはこのようなユーザーの衝動や心情に対処する類いのコミュニケーションはあまり行われてきませんでした。しかし、技術の発達により、昨今ではリアルタイムなユーザー行動から、実店舗の接客のような体験を提供できるようになってきています。
特にユーザーのその瞬間の衝動に合わせてアプローチするためには、ポップアップなどの手段により「声をかける」ことに近い体験を取り入れることが大切です。
ここで気を付けなればならないのは、衝動はとても瞬間的なものであるため、タイミングを慎重に見計らう必要があるという点です。実店舗の接客でも、声をかけるタイミングを間違えると「うざい接客」になってしまうのと同じことがオンラインでも起きるのです。
「うざい接客」はかえって離脱を誘発してしまいます。特にポップアップを使用する場合、ユーザーの心情やタイミングを考えずにいたずらに出してしまうと、ネガティブな衝動を与えかねないので注意が必要です。