マーケットは顧客の“動態”で構成されている
――2つ目の問題として、「マーケットを構成している顧客の動態を見失っている」ことを挙げていただきました。
『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)でも紹介した9segs(※1)は多くの方に使っていただいているのですが、このフレームワークで十分に説明しきれていないことがありました。それは、「顧客の心理と行動は変化し続けていて、マーケットは顧客の動態で構成されている」ということです。今日の顧客は昨日の顧客とは違いますし、明日の顧客も今日と同じではありません。それにも関わらず、多くの経営者やマーケターは、顧客やマーケットを固定して捉え、昨日まで有効だった打ち手にそのまま投資をし続けているように見えます。
――最近MarkeZineでは、消費者インサイトを扱った記事がよく読まれるようになっています。「顧客が変化している」ということは感じているものの、なぜ変わっているのか、どう変わっているのかを捉えるのが、難しいのかもしれません。
顧客の動態を可視化し、組織全体で共有するための「顧客動態(カスタマーダイナミクス)」というフレームワークを紹介します(図表2)。

これは9segsを定義した後、運用していくものです。具体的には、9つのセグメントの人数を把握した上で、その人数を定期的にトラッキングし、顧客がどこからどこに動いているかを把握するとともに、経営活動、マーケティング活動を通じてどこの顧客をどこに動かしたいのかを考えていくことになります。
顧客が動くパターンは3色の矢印、12パターンに分類されます。青色の矢印(Growth Route)は事業成長につながる移動、赤色(Failure Route)は事業の衰退につながる移動、そして緑色(Recovery Route)は回復につながる移動です。たとえばGrowth RouteであるG1ルートは、「seg.9 未認知顧客」から、次回購買意向のある「seg.7 積極認知未購買顧客」へと動くことを表しています。Failure Routeの一つであるF1ルートは、「seg.9未認知顧客」の認知は獲得したものの、便益と独自性が理解されなかったり、ニーズやインサイトに合わなかったりしたことで「seg.8消極認知未購買顧客」に移動するケースを示しています(※2)。
ここまでにお話しした(1)顧客の行動は見ているが顧客心理を見ていないこと、(2)マーケットを構成している顧客の動態を見失っていること、これらはどちらも、経営者にも言えることです。様々な経営課題についてご相談をいただきますが、その多くは、顧客が見えなくなっていることに起因しています。この「顧客が見えていない」ということの責任を負うべきところはどこかと言うと、マーケティング部門だと思うんです。マーケティングという部門があるのであれば、顧客心理と行動との関係を一番理解しているべきは、そこにいる人です。それができていないから、経営者は、顧客が見えていないまま投資を重ねることになっているのだと思います。