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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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特集:マーケターの「これから」を話そう

多くの企業は顧客心理が見えていない。その責任はマーケティング部門にある

利益創出の設計こそ重要な仕事

――今、マーケターの役割に関して重要なお話をいただきました。顧客を見なくなってしまっている原因の一つには、日々新しい技術や手法をキャッチアップしなければいけないこと、それによってマーケターがますます忙しくなっていることがあるのかもしれません。

 顧客獲得や維持のノウハウをどれだけ蓄積しても、事業成長に貢献し続けるマーケターにはなれません。私の考えでは、マーケターとは、顧客の心理と行動の関係を理解し、変化し続ける動態として捉えて、自社の製品やサービスがその顧客の心理と行動に対して何ができるか。その結果として、売上と費用がどうなるか、利益が上げられるかということを考えて、適切な設計ができる人です。ところが、どんな施策を実行するかだけを考え、それが利益につながるかどうかを見ていない人が多い。これが3つ目の課題「顧客と自社商品と利益の関係を見ていない」ということです。冒頭の「顧客起点の経営改革」のフレームワーク(図表1)に戻ると、右端の財務結果に書いている「売上−費用=利益」の図式を踏まえていない、ということになります。繰り返しますが、施策を実行すればするほど、費用は積み重なっていきます。その結果売上が上がっても、費用を引き算すると利益が下がっていたとしたら、それは失敗です。

――ノウハウそのものよりも、それが利益にどう影響するのかを理解し、設計できることがより重要、ということでしょうか。

 Howの知識も当然必要で、実行部隊としてのマーケターも必要なのですが、世の中では、その実行部分だけがマーケティングと思われてしまっているきらいがあるように思います。マーケティングに関する記事や知識も、ほとんどがHowの話です。

 それよりも、利益を出すために何が必要かということを常に考え続けて、お客様を見て、お客様にとって必要なことを常に編み出していく、洞察していくほうが、はるかに重要です。そういうことができる方が、後のキャリアで事業を起こしたり、CMOや経営者になったりしています。

 もう一つ、Howだけを見続けるのが危険なのは、得てしてその方法論は、既に今のお客様とあまり関係がなかったり、古いものであったりする場合が非常に多いからです。Howは時代ごとに変わっていき、廃れる可能性が非常に高いものです。なぜならお客様の生活は変わっていき、お客様の心理状態も、行動様式も変わるからです。私がビジネスの世界に入ったときには、広告の手法として「看板」が使われていて、いかに看板に露出するか、広告を打つかが議論されていました。今お客様の生活に合わせて、ほかにも様々な手法が出てきています。本当に必要なHowが何かを知りたければ、これもやはり、お客様を見続けることです。お客様を見ていれば、今何を知識として得なければいけないか、お客様にリーチする方法は何か、全部わかるはずです。

競合との比較も要注意

――ほかに、顧客から目が離れてしまう要因はありますか。

 「戦略」という言葉の誤用と乱用です。戦略という言葉は、戦争から発展してビジネスでも当たり前のように使用されていますが、大きな問題があります。戦争は、相手国を屈服させ自国の意思に従わせることを目的としていますが、ビジネスは、顧客へ価値を提供しその満足度の向上を目的としています。顧客満足なしに継続的な利益を望めないことは自明です。競合を打ち負かしても顧客満足になりません。むしろ、慢心し、顧客への価値を下げ、満足度を失う結果にすらなりかねません。

 しかしながら、「戦略」というと、それが金科玉条のように扱われてしまいます。その結果、顧客ではなく競合ばかり見ているという問題もあるように思います。「競合が何をした」「競合がこんなことを言っている」「競合がこんな商品を出している」などなど……。でもお客様はそもそも競合を感知していなかったり、まったく別のものと比較していたりする可能性も高いんです。たとえばミネラルウォーターのブランドA社は、飲料メーカーの競合B社を見続けているかもしれませんが、お客様はミネラルウォーターではなく、最新の浄水器を買うようになっているかもしれない。こうした動態は、競合ばかり見ていると見逃してしまいます。

 「マーケティング戦略」のような言葉が出てきたときに、まず、顧客への価値をイメージしているでしょうか? 競合に勝つことをイメージしていませんか? マーケティングというのは、お客様の満足を得て、お客様から買っていただき、お金をいただくということなので、ある意味競合に勝たなくても、目的は達成できるんです。マーケットそのものを拡大すれば良いからです。24時間365日、顧客の動きに、変化に、ずっと目を向け続ける。顧客に提供できる価値は何か? そのために何ができるのか? を常に中心において顧客の心理と行動の関係と変化を理解し続けるということが、マーケターと言われる人たちにとって、もっとも重要なのだろうと思います。

※1 9segsを定義する方法は『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)を参照

※2 「顧客動態(カスタマーダイナミクス)」の全12パターンは、日経ビジネス「『サントリー南アルプスの天然水』の競争相手は水道水?」(連載名『顧客起点の経営改革経営に顧客を取り戻せ』)において解説している

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この記事の著者

蓼沼 阿由子(編集部)(タデヌマ アユコ)

東北大学卒業後、テレビ局の報道部にてニュース番組の取材・制作に従事。その後MarkeZine編集部にてWeb・定期誌の記事制作、イベント・講座の企画等を担当。Voicy「耳から学ぶマーケティング」プロジェクト担当。修士(学術)。東京大学大学院学際情報学府修士課程在学中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/12/24 06:15 https://markezine.jp/article/detail/37974

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