これからのマーケターに求められる力
――『コトラーのH2Hマーケティング』には、AIをはじめとする機械と人の分担・共生に関する言及もありました。マーケターの仕事のこれからについて、私たちはどのような見通しを持っておくとよいでしょうか。
たとえば、部下のマーケターに「CTRを最大化するために試行錯誤してみてほしい」と指示を出したい上司がいるとしましょう。上司は何をどのように命じるのがよいかを考えますよね。部下が意図どおり動いているかチェックするのも仕事です。この例において部下が行う実作業の大部分は、いずれAIが担うようになるでしょう。上司がやっていること、つまりAIが機能するためのお膳立て(データを取得できるようにする、外れ値を弾くなど)と、ゴール設定やKPI設定が、マーケターの主な仕事になっていきます。上司のような働きをする上で重要なのは、次々と出てくる新しいテクノロジーや概念を深く理解し、その本質を掴む「メタ能力」です。実際に動かしてみたり、業務に適用してみたりすることでどんどん学び、「こんな使い方ができるんだ」という気づきを得たり、「どのように使うと価値を生むか」という一段階高次の事柄を考えることの重要性が増します。言い換えれば、実践的学習能力と抽象と具体の間を上り降りする能力が求められます。
――それで言うと、コトラー先生は今年90歳ですが、技術革新や社会の変化に目を向け続け、ご自身の理論を進化させていますね。
コトラー先生のすごいところは、様々な領域から使える概念や知見を援用して、マーケティングを体系化し続けているところです。新しい現象、新しい考え方もいち早く採用しています。なぜこのようなことをやり続けられるのかと言うと、コトラー先生は「他の人の頭を使って考える」のがうまいのです。悪い意味で言っているのではありません。社会がこれほどまでに激しく変わり、新しい概念が次々と出てくる中、すべてを自分で学ぶことは不可能です。今回の本も共著の先生がいらっしゃいますが、コトラー先生はその先生方が考えていることをうまく引き出し、咀嚼することで、ご自身の考えをアップデートしているのです。
これができるのは、先生のお人柄だと思います。私は先生の元で学んだこともあるのですが、一度先生と仕事をした人は、また一緒に仕事をしたくなるのだと思います。私たちはこのような先生の姿勢からも、多くを学ぶことができるのではないでしょうか。
