背景にあるジェンダーの開放
――メンズコスメ市場の伸長には、どのような背景があるのでしょうか。
西原:そもそも起きていることとしては、美しくなりたいと思うこと、化粧品を使うということは女性だけの権利ではないという「ジェンダーの開放」だと思っています。
そのため長い目で見ていくと、今後「化粧品は女性が使うもの」という前提で商品を開発したり、プロモーションしたりするのはナンセンスとなっていくでしょう。むしろこれまで当たり前だった市場自体が、あまりに閉ざされていたとも考えられます。
今は「メンズコスメ」というカテゴリーとして注目を集めていますが、将来的には男性向け、女性向けというのはなくなり、「男性でも、女性でも」というジェンダーレスの流れになっていくでしょう。またもっと広げると、これまで美容に興味がなかった人や、不器用な人でも使えるという、ある意味「ユニバーサルデザイン」的な価値観が求められていくと考えます。
「メンズコスメ」というカテゴリーは、その過渡期だからこそ必要なものだと考えています。男性に対して入り口を与えないと、まずそもそも入りづらいと思われてしまうので、そのために必要なゲートであり、ある程度役割を終えたらカテゴリーとしては必要なくなる時がくるかもしれません。もちろん、そうなるにはまだまだ時間がかかるでしょうし、市場としてしばらくは拡大していくでしょう。
ただ、先ほど原田も申したとおり、年齢格差があるのも事実です。アンケートの結果でも、年齢層の高い人ほど「メンズコスメであること」を必要としており(買いやすいと感じている)、若年層は「男性向け、女性向けどちらでも良い」と思っていることがわかっています。上の世代の考えが変わるのには時間がかかると思うので、そういった世代の受け皿としてメンズコスメというカテゴリーは必要なものだと感じています。
女性側の意識にも変化。「男性と一緒に使えるか」が商品を選ぶ基準に
――非常に興味深いです。
西原:おもしろいのは、女性側のコスメを選ぶ視点も変わってきていることです。今までは「自分がどうなるか」を第一に選んでいましたが、@cosmeのクチコミに「夫や息子とも使える」という言葉が多く出るようになり、「近くにいる男性(パートナーや子供)と使えるか」という視点で選ぶ女性も増えてきていることがわかっています。
@cosmeユーザーの女性5,820人に調査を実施した結果、9割の方が男性のスキンケアを好意的に受け取っており、男性がメイクアップをすることへの受容も、スキンケアに比べれば低いものの、7割弱が受け入れていることがわかっています(図表2)。

このように、女性の意識や行動も変わってきていることで、今後の化粧品業界は男女が一緒になってジェンダーレスのほうに変わっていくと考えています。
原田:先日発表した「@cosmeベストコスメアワード2021」で最も支持された商品としてイプサの化粧水「ザ・タイムRアクア」が総合大賞を受賞したのですが、こちらの商品のクチコミでも「男性」というワードが昨年比1.6倍ほど増えていましたね。この化粧水は「シンプルな見た目」「誰でも使いやすい」という点が高く評価されていましたが、そのほか受賞した商品ラインアップを眺めてみても、男性でも女性でも選びやすいものへの支持が高まってきているように感じます。
西原:シンプルさは評価されるようになってきていますよね。デザインがシンプルである点もそうですが、配合されている成分などもシンプルであることが評価の基準になってきています。無印の化粧水に関するクチコミでも「シンプルだから男性にもいいと思う」というようなクチコミがある。シンプルの何が良いのかは言及されていませんでしたが、おそらく「わかりやすさ」というものが求められるようになってきているのではないでしょうか。