マーケットシェア拡大と強い関係性を示すNPI
MarkeZine編集部(以下、MZ):昨年、M-ForceさんはNPIと称する次回購買意向の指標を発表しました。竹中さんにも、取材をさせていただきましたね(該当記事「認知や好感度向上は売上アップにつながりますか?「事業成長」を測るならNPI(次回購買意向)が有効」)。本取材では、さらなる調査として行った自動車業界の分析からわかったことをうかがっていきます。まずはNPIの意味と活用方法について、改めて教えていただけますか?
竹中:NPIは“次回購買意向”との言葉の通り、その商品やサービスを「次に(次も)買いたいか、使いたいか」を確認する指標です。もともとは「9segs(ナインセグズ)」という顧客分析のフレームワークで活用しており、NPIの有無でセグメントを分けて顧客を把握しています。
※9segs:まだブランドを知らない未認知顧客からロイヤル顧客までを「認知・購買経験・購買頻度」と「NPIの有無」で9つに分け、顧客の行動や心理を可視化・定量化する。参考:『顧客起点マーケティング』西口一希 著・翔泳社
前回の調査では、これまでブランドのロイヤリティ指標として使われてきた好感度やNPSと比較して、NPIがよりマーケットシェアと強い相関があることがわかりました。簡単に言うと、売上に対して他の指標よりも説明力があった、ということですね。
MZ:発表内容について、どのような反響がありましたか?
竹中:経営やCMOクラスの方からは、「これまでの歴史的な経緯から好感度やNPSを使っていたが、今ひとつ売上やユーザー数などのより上位の目標との相関を感じられない」「どの担当者も自分の担当部分は順調だという報告はあるが、その割に売上の進捗はよくないと感じていた現象について、指標に問題があったのかもしれない」といった声がありました。
また、マーケティングやプロダクト担当の方々からは「自分の考える戦略に社内の合意形成を図るために理論武装したい」「自身や部署の成果とビジネスへの貢献度を可視化したい」といった声をいただきました。
自動車メーカー3社のNPIを調査・比較
MZ:では、今回の自動車業界の調査について教えてください。そもそもなぜ、NPIを使った分析のケーススタディとして自動車業界を対象にしたのですか?
竹中:前回は、日用消費財のカテゴリで各製品ブランドを調査しました。そのため今回は耐久消費財で、かつコーポレートブランドで調査ができ個別ブランドも重要であるカテゴリとして、自動車業界を選びました。また、ちょうど業界の方から社内で使っている指標に課題があると聞き、NPIがカテゴリに関わらず有効であることを検証してみようと考えました。
MZ:具体的に行った調査と、結果の概要をうかがえますか?
竹中:2020年8月に、自動車免許を保有している20-69歳男女8,303人を対象に、現在所有する車のブランドや次に買いたい車のブランドを取得しました。ここでは、NPIによる示唆が大きかった結果を2つ紹介したいと思います。
ひとつは、主要メーカー3社のNPIおよびu-NPIの比較です。u-NPIとは顧客内次回購買意向」を指しており、今すでに顧客である人のうち何%が「次も買いたい」と思っているかを示します。
表のように、NPI、u-NPIとも、ホンダと日産に比べてトヨタが圧倒的に高い結果が出ました。u-NPIが74.3%ということは、今トヨタ車に乗っている人の4分の3がリピート意向があるということですね。今回は2台以上連続して同じブランドの車に乗っている人を「ロイヤル顧客」と定義しましたが、ロイヤル顧客に絞ったu-NPIはさらに高く、85.3%でした。
一方、日産はロイヤル顧客内のu-NPIは高いですが、前回車種は他のブランドだった一般顧客のu-NPIが34.5%と低く、次の機会に離反するリスクが高いことがわかります。
MZ:トヨタは現在、売上もシェアも他メーカーを大きく引き離して首位と言われています(参照元)。NPIの結果と掛け合わせると、調査時点から一定期間はトヨタが首位の傾向が続く、と解釈することができますか?
竹中:現在顧客の離反のリスクが最も少なく、調査対象者全体の中でのNPIも最も高いことから、顧客の心理状態として、トヨタに有利な状況であることがうかがえます。もちろん、これはあくまで調査当時の状況で「このまま行くとどうなるのか」を示しているので、その後の各メーカーのアクションやその他の要因によって顧客心理が変化していることもあり得ます。