担当者の肌感覚とは異なる結果が出ることも
MZ:マーケティング領域では、よく「獲得か、ブランディングか」という議論が聞かれます。つまり両方を統合して捉えるのが難しい現状があると思いますが、それらの解決に9segsやNPIを活かすことはできるのでしょうか?
竹中:はい。獲得やブランディングの概念を9segsの視点から見直すと、獲得は購買経験・購買頻度という横軸の移動、ブランディングは主にNPIによる縦軸の移動と、認知自体に伸び代がある場合は認知拡大だと捉えられます。
たとえば、認知はしているが次回購買意向がない人が、広告などに接して、次回購買意向が生まれたとすると、それは心理変化を起こせたことになり、ブランディングの成果として計測することができます(図中の矢印の移動)。

また、両方の統合についてですが、当然ながら直接的な売上を生んでいるのは横軸の移動です。しかし実は、我々が年単位で複数ブランドのマーケットシェアを追ったところ、NPIとマーケットシェアには非常に強い相関がありました。「次に(次も)買いたい」という心理変化が、年単位で見るとたしかに売上に貢献しているとわかったわけです。
MZ:なるほど。確かに顧客が9segsのどこからどこに動いたのかを追っていけば、ブランディングの効果も見えてきますね。ブランディングは効果検証が難しく、肌感覚に頼り勝ちなところもありますが、NPIを使うと単発の計測も、かつ長期的に売上につなげる活動の可視化もできそうです。
竹中:そうですね。逆に、ブランディング施策を打っているつもりが、縦の変化も横の変化も起こしていないこともあります。NPIは、そうした“無風”な活動を検出するにも使えます。目的が異なるそれぞれの施策が狙い通り効いたのか、また長期的にはどうなのかを意識しながら顧客全体をマネジメントするのに役立つと思います。
NPIは担当者の肌感覚とかなり違うことも多いです。「この程度は次回購買に選ばれているだろう」と思っていたのにとても低かったり、意外なブランドが支持されていたり、といったことです。その結果の要因を深掘りすることから、顧客心理の理解が始まります。

KPI設計で大切にしたい、2つのこと
MZ:竹中さんは今回のNPIを含め、顧客起点のPDCA手法の研究にかかわっていらっしゃいます。改めてマーケティングにおけるKPI設定で重要だと思うことについて、アドバイスをいただけますか?
竹中:KPI設定で重要なのは、Key Performance Indicatorの言葉通り、本当に上位目標である売上を説明するIndicator(指標)になっているかの検証だと思います。
また、中間指標とするからには、その指標を基に次の意志決定をし、動くことができるか、つまりPDCAの“C”だけでなく、次の“A”のアクション、そして次の大きなWHO&WHATの戦略であるPにつながるサイクルを作り出せるかがポイントです。
多くの企業で、各施策レベルのPDCA、つまり“HOW”の部分のPDCAは回すことができていると思います。ですが本来は、いわゆる“WHO(誰に)/WHAT(何を)”のレベルにおいても、PDCAを回していくことが必要です。中長期の取り組みとなるため難易度が高いのですが、NPIのようにそれをやりやすくする指標やツールを開発し、実務の現場で使っていただけるようにするのが、私が実現していきたいことの一つです。
MZ:ありがとうございます。最後に今後の展望を教えてください。
竹中:今後は、NPIの先行指標としての有効性や、さらに業界ごとの定量的な価値、たとえばNPIが1ポイント改善すると平均してシェアがX%改善するなどのデータベースの実用化を、ユーザーの皆様のニーズも踏まえながら着実に進めたいと考えています。
また、もう一つの大きな方向性は、日本以外での検証です。既にグローバルでビジネスを展開するユーザーから「複数の国で同時に9segsを行いたい」という話もあり、まずはご一緒いただけるユーザーの方とトライアルを行いたいと思っています。私自身、過去に北米や東南アジアのマーケットをマーケティング実務担当者としてリードした経験から、日本と同様の結果が得られる可能性は高いと考えています。これらの結果もいずれ何らかの形でお伝えできればと思います。