SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

生活者データバンク

パッケージデザイン完全自動生成の可能性

パッケージリニューアルのトレンドを踏まえた、AIによる次期デザイン予測

 世の中には数多くの消費財が存在しているが、本稿ではデザインの統一性があり、リニューアル回数の多いアルコール飲料を対象とすることとした。具体的には国内メーカーの350ml缶の画像データからデザイン抽出と、生成モデル検討を進めた。ただ、同じアルコール飲料でもデザインは多様であるため、一絡げにして取り扱うことは避けたい。

 そこでよりシンプルに学習ができるよう、リニューアルを繰り返した同一ブランドの商品群を対象として、デザイン生成を試みた。具体的には過去から現在までの商品群に含まれるデザインパーツを分離し、さらにデザインの時系列的な変遷傾向から将来的にどのようなパッケージデザインが生み出されそうかを推測することとした。

 図表2はあるアルコール飲料のデザイン変化を目検チェックしたもので、デザインパーツは共通点とトレンドによる変化に分かれていることがわかった。

図表2 学習データの目検チェック
図表2 学習データの目検チェック

 この傾向は他の商品でも同様であり、共通点はブランドらしさを体現し、トレンドで目新しさを強調するよう構成されていた。

 この両者に対して前項で記述した方法を用いて数値化を行い、過去から現在までの商品群のデータを時系列表現することで、将来どのようなパッケージデザインへと推移していくかを、時系列予測モデルで推測することとした。

 これはデザインのトレンドが消費者ニーズの変遷を経てチューニングされてきたという前提のもと、時系列的に一貫性があるのであれば、その傾向は未来にも適用する価値があるという仮説のもと行っている。結果については市販されてきたパッケージデザインを用いているため、イメージ図をもとに結果を紹介することとする。

 図表3はデザイン変遷イメージを大まかにイラスト化したものであり、三日月や長方形などで表現したデザインパーツの色や位置の変化を示している。

図表3 本手法で予測した際のパッケージデザイン生成例
図表3 本手法で予測した際のパッケージデザイン生成例

 たとえば、三日月は真ん中から上部へ移動し、長方形は色が暗くなりながら上部へ移動している。実際はデザインパーツの線の太さや面積、テキストの形状も変化するためさらに複雑であるが、一定の規則性をもってデザインが時系列で変化しているのはおもしろい。

 これらのデータを学習した結果、図表4の最も右にあるようなデザイン案の生成をすることができた。

図表4 パッケージデザイン生成が自動化されたパッケージ制作から上市までの流れ
図表4 パッケージデザイン生成が自動化されたパッケージ制作から上市までの流れ

 パッケージ全体を学習するのではなく、デザインパーツに分け、それぞれの色や位置、形状、面積などの特徴と、時系列変化を学習することで、画像精度が高まったのみならず、ブランドらしさを示す「変えてはいけない部分」とトレンドを踏まえて「新しくすべき方向」を区別して予測することができた。

 実は、このようにデザインパーツの位置や色などが一定のベクトルで時系列変化する商品は他にも散見された。たとえば、ロングセラー商品はブランドとしての視認性を確保すべく共通項を残すし、目新しさの訴求のために位置や色などが変更されることがある。このようなケースであれば、AIでデザインを生成する対象としては相性が良いように思える。ただし、推測したパーツ位置通りだと、デザインとしてのバランスに違和感が生じてしまうため、現状では推測値をもとに手動で補正をしたイラスト化を行っている。

 また、ゼロベースでデザインを生成できておらず改善の余地はあるものの、AIでも一部のデザインを生成できる可能性があり、興味深い結果になったと考えている。

 本稿では、パッケージデザイン生成を自動的に行う手法の検討をしてきたが、生成されたデザインの評価と、その評価を生成モデルへフィードバックするところまでは進められていない。また、同一ブランド内でしかデザイン案を生成できていないため、将来的には何らかの指定した条件に従って、自由にデザイン案を生成できる仕組み作りにもチャレンジしていきたい。図表4はそんな世界観を表現したものだが、従来手法のさらに上流に本稿のようなAIが登場するイメージだ。従来、属人的な性格の強い業務領域であるが、AIが介入することで新たなデザイン案の量産にもつながる可能性も秘めているのではないだろうか。

※1 2020年9月MarkeZine筆者寄稿記事
※2 【GAN(Generative Adversarial Networks)】ディープラーニング技術の一種で敵対的生成ネットワークと呼ばれるもの。画像を生成する構造と、それを正しいかどうかを判別る構造が含まれており、両者が競合することでリアルな画像生成を実現できる技術。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
生活者データバンク連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

伊藤 友治(イトウ トモハル)

株式会社インテージ 事業開発本部 先端技術部 製造小売業、専門商社を経て、インテージに入社したデータサイエンティストです。主にマーケティング課題解決に対して、所謂データサイエンスの力でお手伝いしてきました。現在、画像解析系のAI技術をマーケティング領域で利活用すべく、いくつかのプロジェクトを担当してい...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2022/03/01 08:30 https://markezine.jp/article/detail/38392

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング