食パンとカレーパン、それぞれで見据える戦略
高橋:食パンもカレーパンもまだまだ大きな期待値を秘めていると思いますが、岸本さんは、今後どのような展開を見据えているのでしょうか?
岸本:食パンは一生食べ続けるものだけに、ブームというより、すでに成熟した1つの市場になっていると思うんです。かつては豆腐が豆腐屋さんで売られていたみたいに、食パン屋として根付いていって、一生なくなることはないのかなと。僕らはその中で、日常+ギフトの食パン屋を展開していますが、今後はもっと日常にコミットしたお店も開いてみたいと思っています。
カレーパンに関しては、食パンとは違うニーズではあるものの、安定して売れているので、大きめの都市に商圏を絞って、全国に広げていきたいですね。現在4店舗なので、どんどん増やしていきたいと思っていますが、カレーパンは嗜好品であり日常性は食パンに劣るため、50店舗くらいが出店の1つの目安になるのではないかと考えています。
高橋:ブルーオーシャンで、しかも安定して売れるならガンガン広げていきたくなるところですが、ビジネス的にすごく冷静に見ていらっしゃいますね。
岸本:売上は全部チェックしているし、感覚とデータは常に神経をとがらせています。その上で、カレーパンは各商品に対するディテールと早めの投資回収に重きを置いている感じですね。
「人を喜ばせたい」の思いはパン業界を超えて
高橋:製パン技術の進化も目覚ましい中で、今後このような産業が生まれてくるんじゃないかとか、10年スパンの予測もしていらっしゃるのでしょうか?
岸本:様々な予測を頭でめぐらせています。食パン市場はこれまで、麦の味が引き立つリーンな味わいから、職人さんには「ケーキ」と言われていたソフトな味やリッチな味わいが台頭するようになるという革命が起きました。この変化は今後も常に意識しています。
あと、モノをクリエイトするという意味で、吸い付くようなパン生地を再現した抱き枕も作りました。衣食住という基本的な生活要素のつながりで、暮らしに関わるものをという発想から生まれていて、「明日の朝も美味しいパンを食べられるように、気持ちよく寝てくださいね」というメッセージ性を持たせています。
他にも、形式張った葬儀がすごく嫌だった経験から、パンを届けながら故人を見送れるような、ちょっと砕けたオーダーメイドの葬儀のデザインもしていきたいと思っていて、今年を目処に準備を進めているところです。
形態は何であれ、人の役に立てる事業を展開していきたいです。葬儀は半分くらいの方に嫌われそうですけど(笑)。
高橋:もはやパン業界の話に留まらなくなりますね。岸本さんが、その自由な発想でさらに話題を席巻されていくのが目に浮かびます(笑)。
マーケあり!ポイント
・岸本さんは「食パン」「カレーパン」などのパン種別ごとに、購入されるお客様やその購買頻度などについて、データと感覚を通じて明確にイメージを持っています。カレーパンは食パンに比べ嗜好性が高いため、相対的に商圏が広く、遠くからでもお客様が買いに来てくれる。一方で、日常性は低いため、立地させられる店舗数は食パン専門店に比べて少なくなる。この客観的に自社を見つめて分析されていたのが非常に印象的でした。
・「カレーパン」専門店で開発された商品は、既存の食パン専門店においてもクロスセル商品という形で販売されます。新規事業開発が、既存事業にもポジティブな影響を与えつつある、好例と言えそうです。