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第106号(2024年10月号)
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1から学ぶインサイト発掘の手法

インサイトを発掘するスキルを磨く。日常的にできる8つのトレーニング手法を紹介

 ユニリーバ・ジャパン/ラフラ・ジャパンの木村氏が、インサイトを導き出し、製品開発に活かしていく方法を解説してきた本連載。「理屈としてはわかったものの、いざ自分がやっていくとなると何から始めればわからない」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そこで本記事では、木村氏が日頃実践している、インサイトの良質なヒントを見つけるためのトレーニング手法を教えてもらいました。

インサイト発掘には、日々の「トレーニング」が必要

 インサイトについて、詳しくは過去の記事をご覧いただければと思いますが、1点だけ、ここで繰り返し説明させていただきます。

 私は、インサイトを「消費者の既成概念によって隠れている、まだ言語化、顕在化されていない消費者ニーズ」と定義づけています。インサイトを探すというのは毎回、川の中から砂金を探していくような作業で、見つけたインサイトの卵を明確に言語化するところまで行うのが、消費者調査部門やマーケティング部門の仕事になります。なので、フォーマットやテンプレートに落とし込めば、自動的に答えが見つかるものではありません。英語の授業を受けて単語や文法を理解しても、すぐに聞いたり話せなかったり、プログラミングのロジックはわかっても、スラスラとコードが書けないのと同じで、インサイトを発掘するためには、時間をかけて、消費者の心理を理解していくための日々の鍛錬や習慣が必要です。一方で、それらを学んでいくスピードを上げるために、ある程度トレーニングの型があることも事実ですので、本記事では、インサイトを発掘するスキル向上のためのいくつかの「トレーニング法」を紹介したいと思います。

 まず、私が普段実践している方法を箇条書きで挙げてみました。前半から後半にかけて、少しづつ難易度を上げた実践的な方法になっています。以下では、それぞれについて詳しく解説します。

インサイトを発掘する力を上げる8つの手法

1.市場データを見る

2.SNS上の声を拾う

3.お客様相談室へ問い合わせる

4.友達や家族に商品への不満を聞いてみる

5.他社製品のコンセプトを書いてみて、インサイトを逆算してみる

6.あらゆる広告や製品を見て、何のインサイトに訴えようとしているかを想像してみる

7.同僚で、マーケターではない人と壁打ちしてみる

8.ロイヤルユーザーとノンユーザーに同じ質問をして、回答の差を比べてみる

1.市場データを見る

 市場データは様々な使い方ができますが、ここでは数値として市場の大枠を捉え、インサイトを導くための仮説をの材料を集めるために使います。自社の製品のカテゴリーや競合に関するプレスリリースやIR資料には市場規模や顧客数などの数的なデータが書いてあるため、信頼に足る情報ソースだと判断したものは積極的に読むべきです。

 特に成長している市場や競合については、それだけ消費者の行動や心理の動きが大きい市場なため、新しいインサイトが見つけやすいと言えます。成長率はどれくらいで、市場規模はどれくらいあるかを把握しておくことは、マーケティング戦略の大枠を外さないうえで重要ですし、市場データの知識を段階を追って見ていくと、ビジネスのトレンドと相まって消費者行動や心理の動きを全体像として把握することが可能になります。

 他にも、一つの市場の中で起きているトレンドの変化を把握しておくと、役に立つことがあります。私が関わっていたヘアケアの市場であれば、市場全体は同じくらいの規模で推移していても、トリートメントのカテゴリーは伸びている、といったことがありました。

 インサイトのヒントを見つけるという文脈において大切なのは、それらのデータを見て「トリートメント市場が伸びているから、トリートメントの製品を発売しよう」とビジネス的な側面での活用をするわけではなく、「なぜトリートメントを購入する消費者が増えているのか」の考察を蓄積することです。既存のシャンプーやコンディショナーに不満があるのか、日本人の髪の毛にダメージが増える要因があるのか、髪を補修するトリートメントではなく、カラーリングするトリートメントが増えたのか、など、データは、答えを出すためではなく、様々な仮説を立てるための宝庫として活用することをお勧めします。

2.SNS上の声を拾う

 私は日常的にSNSを使うタイプではないので、あえて説明させていただくことにしました。逆に日頃からInstagramやTikTok、Facebook、Twitterを見ている方は、この項目は飛ばしていただいても構いません。

 SNSでは、普段接することがない人たちの声を拾うことができます。首都圏に住んでいる場合、たとえ消費者調査をしていても、北海道の小さな町に住む人々がどのように暮らしているのかを知る機会はあまりありません。ですがSNSを使うと、たとえばその方々が冬に雪とどのように共存しながら生活しているかを知ることができます。他には、ジャニーズのグループのファンがSNSでのトレンド入りを目指して活動をしているのを目撃することもあります。私にとってはいずれも、SNSを見なければ知ることができない世界です。

 さらに最近はYouTubeやTikTok発の有名人が誕生しはじめてマスメディアに露出しているので、新しいトレンドを知るうえでは必須です。

 一方で、個人的には、SNSの声に惑わされないように、と考えるようにもしています。広告の手段やとトレンドの発掘として、SNSは非常に重要ですが、フィルターバブルという言葉が表すように、SNSでは自分が好む情報ばかりを見ている傾向もありますし、SNS上で盛り上がっていても、日本全体でみるとほとんど知られていない、ということも珍しくありません。自分が見ているものは一部の世界の話ではないか、ということは常に意識をすべきだと思います。

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この記事の著者

木村 元(キムラ ツカサ)

株式会社Brandism
代表取締役

ユニリーバに2009年に入社。約12年間、ラックスやダヴなどのブランドマーケティングを経験。国内を中心とした360°のプロモーションから、グローバルのブランド戦略や製品開発まで、幅広く従事。ロンドン本社にてダヴを担当し、グローバル全体のブランド戦略設計をリードした後、20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/04/01 08:00 https://markezine.jp/article/detail/38512

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