限られた秒数で伝え切るため、強いメッセージを探す
――広告出稿までのプロセスを、どのように進めていったのでしょうか。
花岡:まず先ほど話題に挙がった、マス広告が効果を与えるであろう認知について、どのような指標で計測していくのかを考えました。当社の場合はこれまでほぼ広告出稿をしておらず、認知率にまだまだ伸びしろがある状況だったため、「出稿後にどれくらい指名検索数が上がるか」をモニタリングすることにしました。
木村:媒体を決めていくにあたっては、リーチできる層を見極め、はじめはタクシー広告に狙いを定めました。とはいえ、当初から成長スピードを上げるために、いずれはCPMが最も効率的なテレビへの投資は必須であることは想定しており、タクシーに限定しない、テレビでもワークするクリエイティブ開発は意識していました。その後反響が良かったので、同じクリエイティブをテレビにも展開しました。
花岡:KPIと媒体の選定後は、ターゲット顧客や軸となるメッセージなどの要件を整理し、それを基にクリエイティブ案を制作いただき、それについてディスカッションするという流れで進めていきました。
――要件の整理について、様子をお聞かせください。
花岡:最初の壁はメッセージの策定でした。ECシステムというのは、どのサービスも見かけ上はほぼ同じ機能を持っているように見えます。しかし使ってみると違いが存在し、その違いが、選ばれる理由、継続される理由になっていることが多いのです。広告という枠の中でどうすればそれが伝わるのか、議論を重ねました。当社メンバーが持っている内部の視点と、木村さんのような外部の視点をすり合わせながら、進めていきましたよね。
木村:はい。さらにタクシー広告は30秒という限られた時間の中で伝え切らなければいけないため、メッセージの強さも必要になります。議論の末に今回導き出したのは「ecforceは売上に寄与できるシステムである」という内容でした。一般的にシステムというと管理・運用のイメージが強いのですが、ecforceの場合は、導入後に売上が改善したというお客様が多く、公開できる実績もあります。この要素を活かしながら、クリエイティブを制作していくことにしました。
インサイトにたどり着くまで考え抜く
――では、先ほどのメッセージをクリエイティブにどのように落とし込んでいったのか、教えてください。動画を拝見すると、ECで買い物するときの“あるある”をストーリー仕立てで伝えていますね。
花岡:クリエイティブは、プロジェクトの中で最も悩んだ部分かもしれません。詳しくはぜひ実際のCMをご覧いただきたいのですが、前半は、エンドユーザーがECで買い物しようとするシーンを描くことで、ECカートシステムの選定の重要性を伝えました。後半では、ecforceはエンドユーザーの使いやすさに強みを持っているからこそ、売上に貢献できるというメッセージを、実績とともに打ち出しました(※1)。このクリエイティブは、一度決まりかけていた案が覆って、生まれたものでした。
最初の案は、「ecforceは売上に寄与できる」という先ほどのメッセージを、ストレートかつおもしろく伝えるものでした。具体的には、ECの売上が伸びていることを、タレントさんの髪の毛が縦に伸びていく様子で表現しており、構想を聞きながら爆笑してしまうほどユニークで、インパクトもありました。その場にいたほぼ全員が「いいね!」となったのですが、木村さんが「インサイトにたどり着けていない」と待ったをかけ、全員でインサイトに向き合うところからやり直すことになりました。
その後改めて、ecforceが売上に寄与できるのはなぜなのかを整理しました。社内から挙がったのは「事業者のさらに先にいる、エンドユーザーにとって使いやすいECカートシステムを提供しているから」という声でした。実はこの「エンドユーザーの使いやすさ」は、リアルの店舗と違ってお客様の顔の見えない中で事業展開をしているEC事業者が忘れてしまいがちな点でもあります。私たち自身もECを展開してきたので、その気持ちはとてもよくわかります。そこで、盲点になっているこの要素をストーリーにして伝えることで、より深く共感していただけるのではないかと考えました。
木村:さらに掘り下げて考えたことで、この要素にたどり着けたのは良かったですよね。今回は、このマス広告でecforceを初めて知るという人が多くいらっしゃる、ということを特に考慮しました。具体的には、そのような方々の“最初の認知”を作るクリエイティブとして色がつきすぎないか、今回獲得した認知を後々も活かしていけるか、ブランドイメージに一貫性を持たせることができるかなどを踏まえて、判断しました。
花岡:後半では、サービスや会社について丁寧に説明しています。これまで行ってきたデジタルのペイド広告では、ブランディングを意識し、スタイリッシュな印象を持たせていたのですが、今回は初めて私たちを知る人に向け、まずは何者かを率直に伝えることを優先しました。