2021年、プロモーションの主戦場をInstagramへ
MarkeZine編集部(以下、MZ):セイコーウオッチが展開するブランド「セイコー ルキア(以下、ルキア)」は、2021年2月にInstagram公式アカウント(@seiko_lukia)を立ち上げ、Instagramに注力したプロモーションを行われてきました。今回は、約1年間で実施されてきたプロモーション施策について、セイコーウオッチの玉井さん、電通の福本さん、CARTA COMMUNICATIONS(以下、CCI)の白根さん、Metaの桑田さんにお話を伺います。まずは、ルキアがどういったブランドなのかご紹介いただけますか?
玉井:ルキアは、1995年、女性の腕時計がまだ“アクセサリー”として捉えられていた時代に、女性用の実用ウオッチのパイオニアとして誕生しました。変化する時代の中で多様化していく女性の生き方に寄り添いながら共に歩み、新たな提案をし続けていく――そんなブランドとしてのレガシーを持っています。メインターゲットとしているのは20~30代の女性で、セイコーウオッチの中では唯一のレディス専用ブランドです。
MZ:Instagramをメインとしたプロモーションに踏み切ったのには、どういった経緯があったのですか?
玉井:もともとのSEIKOブランドのイメージが少なからず影響していると思うのですが、年齢が若くなるにしたがって、ルキアの認知度が低くなっていることに課題感を抱いていました。先述した通り、ルキアは20~30代をメインターゲットとしています。若年層のファンも獲得していくためにプロモーション戦略を大きく転換する決断をし、SNS、とりわけInstagramを積極的に活用し始めました。
また、ルキアだけでなく会社全体の方針として、ターゲットへ効率的に情報を届けることを目的に、近年デジタルマーケティングにより注力する動きが強くなっています。今回ルキアではInstagramを活用していますが、他ブランドではLINEを活用したプロモーションなども実施しております。
Instagramの機能をフルに活用し、綿密な情報提供を
MZ:Instagramアカウントを運用していく上で、最初に運用方針やルールを決められたりしましたか?
白根:アカウントを開設するにあたって、運用方針についてはかなり議論を重ねました。電通さんが手がけるクリエイティブの力、Instagramのユーザーを巻き込んでいく力、そしてルキアがブランドとして持っている想い。この3つを掛け合わせて、ルキアを魅力的に見せるにはどうすればいいか? 3社で時間をかけて丁寧に議論しました。
議論の末に決まったのは、ルキアの魅力をビジュアルで伝える場とユーザーとコミュニケーションする場を分けてプロモーションしていく、という方針です。まず、フィード面はルキアのブランドブックとしてコンテンツをストックしていく。それだけだとブランドからの一方向的なメッセージになってしまうので、ストーリーズやInstagramライブ(以下、インスタライブ)など、Instagramにある機能をフルに活用し双方向のコミュニケーションを通じてエンゲージメントを高めていく戦略を立てました。
玉井:ショップ機能もアカウント立ち上げのタイミングで導入しました。フィードで投稿した商品はすべてタグ付けしており、SEIKOの公式オンラインストアである「SEIKO DREAM SQUARE」とも連携しています。ルキアのInstagramから「SEIKO DREAM SQUARE」のオンラインストアに来て下さった方は、その滞在時間が平均の倍以上になっており、ショップ開設の成果はすでに実感しています。非常に質の高いユーザーをショップへ誘導できていること、Instagramが購買の後押しになっていることを数値で確認できており、これは従来のオフラインメディアへの出稿では追えなかった部分なので、デジタルの利点を感じていますね。
多数の施策を実施!1年間で行ったプロモーションを振り返り
MZ:この1年、どのようにInstagram上でプロモーションを行われてきたのか教えて下さい。
玉井:ルキアは2021年2月に新しいコレクション「I Collection(以下、アイコレクション)」を発売しました。これには、プロモーションだけでなく商品展開においても新しいターゲットを獲得していくという意図があり、Instagramでは基本的にこのアイコレクションをPRしてきました。立ち上げ当初から常時Instagram広告を展開してきたほか、ARカメラエフェクトを活用した盛り上がりを図るキャンペーン施策を行ったり、インスタライブも計3回行いました。
MZ:Instagram広告は、具体的にどのような目的で、どのようなクリエイティブを?
玉井:新たなターゲットも獲得していくというブランドの転換期に、ルキアのイメージキャラクターとして女優の池田エライザさんを迎えたプロモーションがスタートしました。立ち上げ期のInstagram広告では、池田さんが出演されたビジュアルとショートムービーを展開していました。目的は、アカウントへの集客もありますが、アイコレクション自体の認知拡大とブランディングも大きかったです。
福本:クリエイティブに関しては、広告だけでなくフィード投稿やARカメラエフェクトなどにも通じることですが、ルキアの場合、プロモーションのために表現を作るという意識はあまりありませんでした。ルキアには、その時代ごとに女性のライフスタイルに寄り添ってきたというブランドのレガシーがあり、アイコレクション自体「今を生きていく私の相棒」をコピーにしています。ブランドの想いそのものが、生活者の今の視点に合っているので、それを丁寧に伝えることを意識しました。
具体的には、一連のプロモーションの起点として、「池田エライザの“I=自分らしさ”に触れる 10のテーマと100の言葉」という企画を行いました。これも、池田さんがルキアのブランドメッセージに心から共感して下さったから実現した企画ですが、広告やフィード投稿など随所で池田さんの言葉を引用し、それを通してブランドのメッセージを届けていきました。
通常であれば、10個ものテーマをターゲットへ理解してもらうというのは、なかなか難しいと思います。ですが、Instagramではフィード投稿やストーリーズ、広告などで、届けるユーザーやタイミング、見せ方などを非常に細かく調整できます。このように、たくさんの選択肢があったからこそ実現したプロモーション企画だったと思います。
メタバースで注目度アップ!ARカメラエフェクトの効果的な使い方
MZ: ARカメラエフェクトを用いた施策についても、詳細を教えて下さい。
白根:ブランドの世界観を表現するためにARカメラエフェクトを制作し、「今」というテーマで写真投稿キャンペーンを実施しました。ここでも「池田エライザの“I=自分らしさ”に触れる 10のテーマと100の言葉」を用いて、池田さんの言葉を一部切り出してARカメラエフェクトに載せました。一見するとシンプルなクリエイティブですが、かなり細部までこだわりが詰まっています。ターゲットが女性なので、少しでも綺麗に写るようにしたり、コピーが自然に馴染むようにしたり。何度も試作を重ねました。
玉井:そうですね。自撮りをする時に、もう少し目が大きく写るようにとか、もう少し盛れるようにとか……(笑)。たくさんリクエストさせていただきました。
桑田:ARカメラエフェクトに関しては、以前はリップや眼鏡など、試着を促す目的で用いられることが多かったのですが、最近は活用の幅が広がっています。メタバースというワードが浸透し始めた影響もあり、店頭やイベント会場でしかできない体験をARカメラエフェクトを通して提供するなど、商品・サービスのカテゴリを問わず、様々な場面で活用されるようになっています。ルキアさんの今回の施策も、商品やブランドメッセージを前面に押し出すのではなく、ARカメラエフェクトそのものを体験として楽しめるようなものでした。だからこそ、利用者に受け入れられたのだと思います。ブランドの世界観を体感してもらえるという点で、ARカメラエフェクトはエンゲージメントがとても強く、ブランディングの観点でも有効です。
購入を後押しするコンテンツとして「インスタライブ」が機能
MZ:インスタライブも計3回実施されたということで、どのような成果や気づきがありましたか?
玉井:コロナ禍でなかなか店頭に足を運んでいただけない時期が続いており、また外出を控えている方も多いので、外出先で何か新しいものを発見するという機会が減っているように感じていました。そんな中、一番身近なSNSを通じて、より近い距離感でユーザーへまとまった情報を届けられるという点で、インスタライブは非常に活用できると感じています。
特に効果を感じたのは、池田さんとのコラボモデルを発売した2021年11月に実施したインスタライブです。コラボモデルの情報をリリースした後にインスタライブを行い、その翌日に商品を発売、さらに追いかける形でインスタライブに絡めたキャンペーンを実施したところ、単価11万の限定モデルが早々にほぼ完売となりました。商品を認知していなかった層、認知はしていたけど検討段階で止まっていた層の購入を後押しするコンテンツとして、このインスタライブが機能したのだと捉えています。
福本:コラボモデルのリリースからインスタライブの実施、その後のキャンペーンまで、一連の流れをすべてInstagramの中で完結できたことも成功の要因だったと思います。これだけの長いタームでユーザーとコミュニケーションを継続するというのは、他のメディアでは叶わないことです。伺った話では、「インスタライブを見て買いに来ました!」というようなお客様もいらっしゃったそうで、これまでリーチできていなかった層にリーチし、購入までつなげられたという点で、立体的にキャンペーンを実施できたと言えるのではないかと思います。
質の良いフォロワーを資産に他媒体の施策にも一貫性と連動性を
MZ:Instagramの本格活用から1年が経ちましたが、ここまでの手応えはどうでしょうか?
玉井:やはり一番は、我々がターゲットとしている層へしっかりメッセージを届けられているという実感が大きいです。実際にフォロワーの約9割が女性で、池田さんのコンテンツだけでなく、時計だけを写したフィード投稿なども保存数が高いことから、本当にブランドや時計に興味を持って下さっている層へリーチできていると思っています。
福本:池田さんのファンの方々の流入ももちろんありましたが、フォロワーが伸びていくのは徐々に徐々に、という形でした。当初は、池田さんのアカウントのフォロワーが一気に流入してくるのではとも思ったのですが、玉井さんがおっしゃった通り、純粋にルキアのブランドに興味のある方、ブランドが好きな方がフォローして下さっている状況です。インスタライブの熱量の高さなどから、フォロワーの数だけでは見えない、質の良さを実感しています。
桑田:日本のマーケットは他の国と比べて、フォローはしていなくても、アカウントのプロフィールを訪れる利用者が多いという特徴があります。そのような中で、きれいな右肩上がりでフォロワー数を成長させているので、素晴らしいと思います。福本さんのお話にも通じますが、タレントを起用したらフォロワー数が増えるというような単純な話ではありません。質の高いオーガニック投稿を継続されてきたことと、ほぼAlways OnでInstagram広告を展開されてきたことで、フォロワー以外の方々へ効率的にリーチできたことに勝因があるのではないでしょうか?
MZ:最後にこれから挑戦したい施策など、目標をお聞かせ下さい。
玉井:フォロワー0人のところからスタートして、この1年で約7万人の方とコミュニケーションを図れる土台ができました。ここからは、この土台を活かして、別媒体との連携をより強くしていきたいと考えています。また、コロナ禍が収束したタイミングで、フォロワーの皆さんを巻き込んだ施策や、店舗とInstagramを絡めたプロモーションにも挑戦していきたいですね。Instagramから実店舗へお客様を連れていく施策を、電通さん、CCIさんのお力も借りながら考えていきたいです。
白根:この1年はブランドの世界観やメッセージを表現するものが多かったのですが、これからは、商品の機能性にもフォーカスしていきたいと考えています。ルキアには、その長い歴史の中で培われてきた機能面での高い技術があります。クリエイティブや見せ方を工夫することで、こうした細部のところまでお伝えしていきたいです。
福本:我々はInstagramの施策だけでなく、マスマーケティングの領域でもサポートさせていただいています。各施策に一貫性と連動性を持たせることが、我々の代理店としての役割ですので、俯瞰する立場でマーケティング全体を最適化していけるよう、一緒に取り組みを続けていければと思います。