具体例の提示こそが広告!玉井流・広告開発プロセス
ポッキーの場合、主張にあたるのは全世界共通のスローガン「Share happiness!」だ。「誰かと分け合えるだけの本数が入っていて、持つところがあって渡しやすく、何かをしながら食べられるチョコレートビスケット」という背景が主張を裏付ける。そして具体例は説得する対象によって最適な内容が異なるため、それを「5W1Hで整理しながら見つけ出す」と玉井氏は話す。

「具体例の提示こそが、広告制作の根幹部分といえるでしょう。ポッキーの場合、人によって解釈が異なるShare happiness!という曖昧な概念を、5W1Hでどう具体化し、対象顧客に提示するべきなのかを考えます。その5W1Hで本当に良いか検証するプロセスも必要です。対象となる人数(Who)が少なすぎたり、想定するシーン(When・Where)が限定的であったりすると、自分たちが期待する売上には当然ながらつながりません。必要な売上が確保できるのかをシミュレーションし、予算や目標数値とすり合わせながら具体例を絞り出すことが広告制作なのです」(玉井氏)
玉井氏はポッキーの具体例として、アメリカの広告を紹介する。江崎グリコは2003年よりアメリカでポッキーの販売を開始。目立った新商品の発売をすることなく、ここ3年間は現地での売上を毎年平均1.2倍ずつ伸長させているという。
アメリカでは「お母さん」をメインターゲットに設定(デモグラフィックだけでなく、ジオグラフィック、サイコグラフィックも詳細に設定)。その上でお母さんたちが5W1Hのうち「When・Where(どんなシーンの)」「What(どんな困りごと)」を抱えているのかを見極めるために消費者調査を行った。
調査から「自己表現の手段」としての価値を発掘
消費者調査の設計段階でアメリカの調査会社に「ポッキー・オン・ザ・ロック(ポッキーをグラスに入れてマドラー代わりにするという販促キャンペーン)」を紹介。興味を示した調査会社の担当者が、その後の消費者インタビューでグラスにポッキーを入れて室内に置いたところ、消費者から意外な反応が得られたのだという。
「こちらからは何も聞いていないのに『ホームパーティーにいいわね』とおっしゃったのです。頻繁にホームパーティーが開かれるアメリカでは、ホストがゲストに供するものを考えるにあたり大変な思いをしているのだと気づきました。その後の現地スタッフとのミーティングではさらに1歩踏み込んで『ゲストをもてなすと同時に自分らしさを表現したい』というインサイトがありそうだと推察。そのインサイトに対し、ポッキーがお役に立てることを絞り出せたのです」(玉井氏)
玉井氏は「個」を重視するアメリカの文化を踏まえ「自己表現の手段探し」という困りごとは半永久的になくならないと判断。出現頻度も十分であることを確認し、様々なクリエイティブの広告を展開していった。

初年度はグラスに入れたポッキーのビジュアルを全ての広告物に使用。パーティーシーンでゲストをもてなす際の新しい自己表現手段としてポッキーがぴったりであることをアピールした。翌年以降はポッキーを使ったおもてなし兼自己表現のバリエーションを加えながら広告を展開したところ、施策はアメリカで大きな話題に。売上の伸長へとつながった。
