老舗ブランドが抱えていた課題
興和は、1894年(明治27年)創業のメーカー兼専門商社である。展開事業の1つには健康医療事業があり、「キャベジンコーワ、バンテリンコーワ、キューピーコーワ」など、生活者からの知名度が高い市販薬ブランドを展開している。
今回ブランド調査の対象となったバンテリンコーワは、関節痛、筋肉痛などに使用する外用鎮痛消炎剤で、カテゴリーの市場規模は年間約700億円。薬局・薬店・ドラッグストアなどで処方せん無しに購入できるOTC医薬品に関する市場の約7%(出典:インテージSRI+ 2020年4月~2021年3月 販売金額 薬効別)が、この外用鎮痛消炎剤の市場となっている。4つの有名ブランドが市場シェアの約半分を占めており、バンテリンコーワはその一角を担っている。
老舗ブランドとして長年シェアを獲得しているバンテリンコーワだが、同ブランドのマーケティングを担当する中山氏は「2つの悩みがある」と語った。
1つは、法律上の制約による、訴求の同質化だ。外用鎮痛消炎剤に限った話ではないが、医薬品業界には薬機法上の縛りがある。そのため、用法・用量や効能・効果について、細かい基準が設けられている。広告の表現にも厳しいチェックが入るため、各社の訴求が似通ってしまい差別化が図りにくいのだ。
もう1つは、バンテリンコーワの持つブランドイメージだ。興和では他社ブランドとの差別化を図るため、広告でプロスポーツ選手を起用している。スポーツシーンでも使用するほど優れた商品という訴求を行っていたが、調査してみると競合ブランドと比較して「スポーツシーンで使うもの」というイメージが強く、「日常の生活シーンで使えるもの」という認識が想定していた水準まで達していなかった。
「生活者の方からお話を伺うと『プロスポーツ選手向けだから、自分に向いている商品ではない』といったご意見もありました。生活者とブランドの間に、少し距離ができてしまっているのではないか、と感じました」(中山氏)
認知が購買行動につながるとは限らない
自社ブランドを管理する上で必要となるのが、定期的なブランドの評価だ。興和でも、定量調査で認知率を把握するなど、ブランド評価に関する取り組みを定期的に実施している。
中山氏は調査を行う中で、「ブランドが世の中に広く知られているからといって、必ずしも生活者の方に選んでいただけるとは限らない」と感じるようになったという。
特にそれを痛感することになったのが、中山氏が担当するもう1つのブランド、ホッカイロだ。興和のホッカイロは認知率が9割を超え、日本人であればほとんどの人が知っているブランドである。しかし、市場でのシェアは一番ではない。
認知度の高さだけでは不十分。「カイロ=ホッカイロと一般名称化している特殊な例ですが、生活者が購買行動を起こす際、如何に自社ブランドを想起してもらえるかが重要ではないか」と感じた中山氏は、ネオマーケティングにエボークトセット調査を依頼した。
エボークトセットとは、生活者が何かの購入を考える際、頭の中にイメージする「購入を検討してもよい」ブランドの集合体、候補リストのことである。
たとえば、生活者が「お茶を飲みたい」と考えたとき、頭の中に知っているお茶のブランドをいくつか思い浮かべる。想起された候補の中から、そのときの気分や状況に応じて購入するブランドを選択しているのである。
エボークトセット調査を支援するネオマーケティングの松田氏によれば、「エボークトセットに入るブランドは人それぞれだが、エボークトセットから漏れたブランドが購入検討されることはない」という。
また、生活者の知るブランドが、必ずしもエボークトセットに入るとは限らない。ブランド認知の実態を正しく把握するために、エボークトセット調査は非常に有用な施策なのだ。