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第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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MarkeZine Day 2022 Spring(AD)

いかに購買時に想起されるブランドに入るか。興和×ネオマーケティングが語る、選ばれるブランドになる戦略

 企業がマーケットシェアを獲得し続けるために、ブランドの管理・評価は重要なタスクである。管理・評価の方法は業界や商品カテゴリーごとに異なり、評価の指標も様々だ。2022年3月9日に開催されたMarkeZine Day 2022 Springでは、キャベジンコーワやバンテリンコーワなどのブランドを持つ興和の中山氏、ネオマーケティングの松田氏が登壇。「選ばれるブランドになるための戦略」をテーマに、事業会社とマーケティング支援会社双方の視点から、ブランドの管理・評価戦略について解説した。

老舗ブランドが抱えていた課題

 興和は、1894年(明治27年)創業のメーカー兼専門商社である。展開事業の1つには健康医療事業があり、「キャベジンコーワ、バンテリンコーワ、キューピーコーワ」など、生活者からの知名度が高い市販薬ブランドを展開している。

 今回ブランド調査の対象となったバンテリンコーワは、関節痛、筋肉痛などに使用する外用鎮痛消炎剤で、カテゴリーの市場規模は年間約700億円。薬局・薬店・ドラッグストアなどで処方せん無しに購入できるOTC医薬品に関する市場の約7%(出典:インテージSRI+ 2020年4月~2021年3月 販売金額 薬効別)が、この外用鎮痛消炎剤の市場となっている。4つの有名ブランドが市場シェアの約半分を占めており、バンテリンコーワはその一角を担っている。

 老舗ブランドとして長年シェアを獲得しているバンテリンコーワだが、同ブランドのマーケティングを担当する中山氏は「2つの悩みがある」と語った。

興和株式会社 医薬事業部 セルフケア営業本部 営業企画部 マーケティング課 中山 健次氏
興和株式会社 医薬事業部 セルフケア営業本部 営業企画部 マーケティング課 中山 健次氏

 1つは、法律上の制約による、訴求の同質化だ。外用鎮痛消炎剤に限った話ではないが、医薬品業界には薬機法上の縛りがある。そのため、用法・用量や効能・効果について、細かい基準が設けられている。広告の表現にも厳しいチェックが入るため、各社の訴求が似通ってしまい差別化が図りにくいのだ。

 もう1つは、バンテリンコーワの持つブランドイメージだ。興和では他社ブランドとの差別化を図るため、広告でプロスポーツ選手を起用している。スポーツシーンでも使用するほど優れた商品という訴求を行っていたが、調査してみると競合ブランドと比較して「スポーツシーンで使うもの」というイメージが強く、「日常の生活シーンで使えるもの」という認識が想定していた水準まで達していなかった。

 「生活者の方からお話を伺うと『プロスポーツ選手向けだから、自分に向いている商品ではない』といったご意見もありました。生活者とブランドの間に、少し距離ができてしまっているのではないか、と感じました」(中山氏)

認知が購買行動につながるとは限らない

 自社ブランドを管理する上で必要となるのが、定期的なブランドの評価だ。興和でも、定量調査で認知率を把握するなど、ブランド評価に関する取り組みを定期的に実施している。

 中山氏は調査を行う中で、「ブランドが世の中に広く知られているからといって、必ずしも生活者の方に選んでいただけるとは限らない」と感じるようになったという。

 特にそれを痛感することになったのが、中山氏が担当するもう1つのブランド、ホッカイロだ。興和のホッカイロは認知率が9割を超え、日本人であればほとんどの人が知っているブランドである。しかし、市場でのシェアは一番ではない。

 認知度の高さだけでは不十分。「カイロ=ホッカイロと一般名称化している特殊な例ですが、生活者が購買行動を起こす際、如何に自社ブランドを想起してもらえるかが重要ではないか」と感じた中山氏は、ネオマーケティングエボークトセット調査を依頼した。

 エボークトセットとは、生活者が何かの購入を考える際、頭の中にイメージする「購入を検討してもよい」ブランドの集合体、候補リストのことである。

 たとえば、生活者が「お茶を飲みたい」と考えたとき、頭の中に知っているお茶のブランドをいくつか思い浮かべる。想起された候補の中から、そのときの気分や状況に応じて購入するブランドを選択しているのである。

 エボークトセット調査を支援するネオマーケティングの松田氏によれば、「エボークトセットに入るブランドは人それぞれだが、エボークトセットから漏れたブランドが購入検討されることはない」という。

 また、生活者の知るブランドが、必ずしもエボークトセットに入るとは限らない。ブランド認知の実態を正しく把握するために、エボークトセット調査は非常に有用な施策なのだ。

生活者がエボークトセットに選んでいるブランドの数は?

 続けて松田氏はエボークトセットの解説を行った。松田氏によると、エボークトセットはブランドカテゴライゼーションという枠組みの中で理論付けられているという。

 上の図の左側にある「入手可能集合」は、ある商品のカテゴリーにおいて、世の中に存在し得る様々なブランドの集合である。そこから知名段階、処理段階、考慮段階と、3つのフェーズを経て購入に至るのが商品購買のプロセスとなる。

 エボークトセットは3つのフェーズのうち、考慮段階の中にある「想起集合」に該当する。

 生活者が「知名集合」として思い浮かべたブランドのうち、サービスや商品情報を理解しているブランドが「処理集合」を経て、そこから自分が買うべきだと思える商品のみ「想起集合」に到達する。

 この一連のプロセスの中で、想起集合に入らなかったブランドは、購入検討対象から抜け落ちてしまうのである。

 「様々な分野・カテゴリーでエボークトセット調査を行いますが、想起集合の中に入るブランドの数は、ジャンルを問わずおよそ2個程度です」(松田氏)

エボークトセットに含まれる平均的なブランドの数

 中山氏が自身の経験から感じたように、如何に認知度が高くても「想起集合」の2ブランドに入れない限り、購入検討の対象となるのは難しい。

 「ブランドとして名前を知られるだけではなく、商品の質や特性について理解してもらった上で、いかに処理集合から想起集合の中に入っていくかが重要になると考えています」(松田氏)

CEP調査の活用によって差別化のヒントを得る

 ブランドが生活者にとっての購入検討対象となるためには、具体的にどのようなイメージが紐づいていく必要があるのだろうか。今回の調査では、バンテリンコーワが想起集合に含まれているか、ブランドに対してどのようなイメージを持たれているかについての検証が行われた。

 ブランドとイメージの結びつきについては、エボークトセット調査と併せて、CEP(カテゴリーエントリーポイント)調査も実施。CEPとは、生活者が何かを購入しようと考えたとき、特定のブランドを想起するためのきっかけやヒントとなるものだ。

 たとえば、生活者が数ある清涼飲料水の中から「コーラ」を選んだとする。このとき、コーラを選んだ理由が「ハンバーガーと一緒に飲みたいから」であれば、「ハンバーガーと一緒に」がコーラのCEPである(参考:ブランド想起の入り口、カテゴリーエントリーポイント(CEP)の重要性-ネオマーケティング-)。

 「バンテリンコーワ自体のブランドコンセプトとして『ツラい痛みにジカに効く』というものがあります。今回の調査では、『痛みに効く』からのブランド想起率が高いという結果が得られ安心しています」(中山氏)

 一方で、「痛みに効く」という価値は、競合ブランドでも同様に想起されるCEPであるため、ブランドとして競合他社との差別化を図ることの重要性を再認識したという。

 「CEP調査によって、『痛みに効く』以外でバンテリンコーワが想起されるようなキーワードを発見することができました。今後ブランドとしての独自性を考える上で、大きな収穫になったと感じています」(中山氏)

ブランド評価が必要な3つのシーンとは?

 今回の調査によって、コーワブランドの管理・評価に関する有益な示唆を得た中山氏。次に中山氏は、現在ブランディングに携わる企業担当者へ向けて、エボークトセット調査、CEP調査を推奨したい3つのケースについて語った。

 1つ目は、担当者がマーケティング業務に携わって間もないケースだ。中山氏自身、元々営業部門からマーケティング部門へ異動した経緯があり、当初は右も左もわからない状況で苦労したという。

 「エボークトセット調査やCEP調査をブランドの健康診断として活用することで、ブランドの現状把握と今後の方針についての道筋が見えるのではないか、と感じています」(中山氏)

 2つ目は、歴史の長いブランドやロングセラーブランドを担当するケースだ。現時点ではあらゆる場面で想起されているブランドも、今後10年、20年と存続していくためには、CEPのバリエーションや生活者とのタッチポイントを増やしていく必要がある。調査によって新たなキーワードを発見できれば、ブランドの新たな想起パターンを見出せる可能性も高い。

 3つ目は、プロモーション戦略について方針変更を検討しているケースだ。商品の売り上げが下がったり伸び悩んだりした場合、ブランドのメッセージや訴求内容を変えるべきか否か悩む場面が出てくる。この際にエボークトセット調査やCEP調査を行えば、得られた結果をプロモーション戦略の指標として活用することができるのではないか。

 「現在ブランドが生活者の方にどう思われているか確認できますし、我々のケースのように新たなキーワードが見つかるかもしれません。得られた結果をプロモーション戦略の指標として活用することができるのではないかと考えています」(中山氏)

選ばれるブランドになるために

 松田氏によれば、今回行ったエボークトセット調査やCEP調査は、新しい手法ではないという。これらの手法を用いる際に重要なこととして、「複数の調査方法を組み合わせたり、アプローチを工夫したりすることで、ブランド担当者が本来必要としている情報を取得すること」を挙げた。

株式会社ネオマーケティング カスタマードリブンディビジョン マネジャー 松田 和也氏
株式会社ネオマーケティング カスタマードリブンディビジョン マネジャー 松田 和也氏

 「認知やブランド想起の調査だけで評価を終えてしまうケースが多いのですが、今回の調査では、興和様が狙っていたシーンで、ブランドが想起されているかどうかまで評価することができました。ネオマーケティングとしては、今後調査実績を重ねる上で精度を高め、サービスをさらにブラッシュアップさせていきたいと考えています」(松田氏)

 そしてセッションの最後、中山氏は選ばれるブランド作りのポイントについて「選ばれるブランドになるためには、購入検討段階にどのポイントで生活者の方に想起してもらうかが重要」と語った。

 同社のブランドの多くはロングセラーブランド。それゆえに、近年購買層が高齢化してきているという。既存顧客を大事にしながら、今後ターゲットを若い世代にまで広げていく必要があるが、すぐに若年層に想起されるようなブランドへ変化するのは難しい。

 そのため、興和では今後、今回のような調査を踏まえて生活者とのタッチポイントを増やしていくとのことだ。「ブランドを成長させるための種まきのような施策」を重ね、生活者から選ばれるブランドへと昇華させることでより多くの方に手に取っていただきたいとした。今後興和が行っていく、ブランド戦略に注目したい。

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この記事の著者

坂本 陽平(サカモト ヨウヘイ)

理系ライター、インタビュアー。分析機器メーカー、国際物流、商社勤務を経てフリーランスに。ビジネス領域での実務経験を活かし、サイエンス、ODA、人事、転職、海外文化などのジャンルを中心に執筆活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/05/13 11:00 https://markezine.jp/article/detail/38685