顧客を理解するデータベースを“育てる”取り組みとは
次に長谷川氏は2022年1月にリリースしたFIT3も紹介した。FIT3ではデータ基盤システムを見直し、営業の提案活動をこれまで以上に支援する体制の構築を目指している。ファーストパーティーデータを活用し、MA強化による顧客からのフィードバックデータを基本に顧客との関係性をデータ化し、強い絆を構築していくことがねらいだ。
長谷川氏はその仕組みを「育てるデータベース」だと表現し、以下のように説明する。
「FIT3のデータ基盤システムは、すごい人工知能(AI)や超高性能な機能を備えているというわけではありません。あくまでも『お客様のために何ができるか』を考え、顧客理解に結びつくデータベース構造を実現するといった視点が全てです。具体的にはDWHから顧客情報を抽出してアプローチをする際、高度なデータ活用を得意とするデジタルマーケティング担当者がデータを取り出して加工し、アプローチを仕掛けていきます。良い結果が出た場合はその結果やモデルをDWH側にフィードバックします」(長谷川氏)

こうしたことを繰り返して成功モデルを積み重ね、それを他の担当者にも水平展開している。このように専門性が高くない担当者でも顧客理解ができ、アプローチを進化させられるような環境をファンケルでは「データの民主化」としている。現在は「まだ始めたばかりで適切な業務PDCAが回せていないが、成果にこだわって迅速に対応していく」と長谷川氏は語った。
DXの極意は熱意
最後に長谷川氏はDXの心得について、「DXの極意は結局、担当者の熱意です。変化やリスクを避ける文化は熱意で切り開くしかありません」とコメントした。
十数年前、ファンケルが次なるデジタル活用としてECモールに最初に出店した際には、社内からの抵抗が少なからずあったという。その背景には顧客対応の煩雑化など、具体的な作業増加を懸念するものもあったが、一番の理由は、「現状で十分なのに、なぜわざわざECモールに出店するのか」という「変化を恐れる声」だった。
「デジタルだけの話ではありませんが、何か新しいことに挑戦すれば、最初は覚えることや手間が増えるでしょう。しかし、変化できる環境が整っていたとしても、担当者の熱意と強い気持ちがなければ何も変わりません。我々は『もっと何かできるはず』と考え、DXを推進しています」と長谷川氏は語り、セッションを締めくくった。