打ち切りのピンチも乗り越えてヒット作が作れる理由
高橋飛翔(以下、高橋):佐渡島さんが編集を担当された作品が次々にヒットしていますが、企画の段階でマンガという広いマーケットで勝ち抜くことができる作品かどうかを見極めているのでしょうか? それとも、戦略を考えてその作品をヒット作に仕上げていくのですか?
佐渡島庸平さん(以下、佐渡島):回答としては後者が近いと思います。企画段階で見極めるというよりは、私がおもしろいと思えるものをいかにヒットさせられるか考えていくほうですね。特に私が担当するものの多くは、1巻から売れるようなマーケットインな企画ではありません。
そのため、作品のファンが付くまでやれることをすべてやって、当たるまで粘りに粘るといった感じです。実際に、『ドラゴン桜』は2巻のタイミングで打ち切りの話が出ましたし、『宇宙兄弟』も5巻くらいまでまったく売れなかったんですよ。
佐渡島 庸平(さどしま・ようへい)
1979年生まれ。東京大学文学部卒。大学卒業後に講談社へ入社し、週刊モーニング編集部で『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』『モダンタイムス』などの編集を担当し、次々とヒットさせた敏腕編集者。2021年に講談社を退社してコルクを設立。クリエイターエージェンシーとして世界観を変える物語を生み出し続けている。
高橋:そのような状態から、あそこまでのヒット作にしたのはすごいと思います。
佐渡島:私自身がやり抜くのが好きな性格で粘れたのもありますが、世の中に売れるまで粘るという編集者がほとんどいないからじゃないですかね(笑)。
ヒットするまで何年でも待てるポイントを見つける
高橋:なるほど、マーケットの中でそのようにして「粘ればヒットする作品を作る編集者がいないこと」が、佐渡島さんが成功する理由の1つだったのかもしれませんね。
しかし、ヒットするまでは打ち切りの話が出るなど、実際に数字は付いてきていない状況で、粘りに粘れる根拠はどこにあったんですか? 「おもしろい」という感覚だけではないですよね?
佐渡島:作品や作家の方に対して、何年でも信じて待てるポイントを見つけられていることが根拠になっているかもしれないです。
たとえば、私は中学生時代を南アフリカ共和国で過ごしたのですが、『ドラゴン桜』の制作中に、当時の私がこのマンガを読んでいたら不安にならなかっただろうなって思ったんです。そこから、同じように塾もないような地方で東大に憧れている学生がこれを読むことで、「俺も東大に行けるかも」って不安を払拭できるとか、そのような読者のニーズが見えたんですね。
すぐに売れなくても、社会が変わるのを待てるようなポイントがある作品だと信じられたんです。
また、『宇宙兄弟』のときは、ネームの段階で感動して泣きそうになって、そういう作品はほとんどないだけに、作家の小山宙哉さんは心に響く人間関係を書ける方なんだなって。小山さんが新人作家だったころのネームでも同じように感じたことがあったので、人の感情の機微がわかる魅力的なこの方の作品を求める人は絶対にいると確信していました。
高橋:自身の体験も含め、顧客ニーズがあることを重要視しているのですね。そのポイントを信じ、さらに作品やその作品を作る作家の方をヒットに導くために、やれることはすべてやるとのことでしたが、編集者としてどのような活動がヒットにつながったと思われますか?