百貨店ならではの顧客体験をオンラインでも
MIRSの実際の効果について、升森氏は「高額品はきちんと相談して買いたいというニーズから、宝飾時計雑貨が売上の3割以上」と説明。また、店頭ではつながりづらい50歳以下の顧客がMIRSでは約8割を占める。若い顧客との接点としても貴重だ。
利用状況としてはチャット接客がほとんどを占め、ビデオ通話での接客は3%と当初の仮説とは異なる結果。しかしビデオ接客自体は一定の手順や時間が必要になるため、「これはこれで良かったのでは」と升森氏は評価した。
リモート接客が顧客体験の向上につながった事例もいくつか紹介された。一つ目は、店頭の顧客とオンラインでつながることで、要望の商品を後からチャットで案内した事例。「店頭接客では1回お断りしてしまうとわざわざお電話するのは難しく、ECはそれもできない。チャットでの接客ならではの顧客体験」だと升森氏。また、ECでは取り扱いの少ない生花の問い合わせから、リモートでの丁寧な接客の結果リピートにつながった事例も紹介。百貨店での買い物の魅力である、店員の人間力が満足度の高い顧客体験を実現した事例だ。
また、店頭で人気ブランドのポップアップイベントをやる際に、SNSでの告知にMIRSへの導線を貼ることで、遠方在住等で店舗に行けない人も購買が可能になる。アンケートの回答の内容から、その顧客に合ったワインをソムリエが選び、サブスクリプションで届ける施策も好評だった。このように、勝ち筋の施策が生まれ始めている。
デジタル推進を支える縦横のコミュニケーション
成果を見ると、デジタルの導入・運用の全てが順調に進んでいるように見えるが「課題も山積している」と升森氏は振り返る。
現場で施策を増やすにつれ「こんなツールが欲しい」という要望も増えるが、開発側とのコミュニケーション不足のため現場の要望を反映しきれていないツールができてしまう。「継続的なコミュニケーション不足に起因する課題が発生していました。一般的によくある課題だと思うが当社でもあった」と升森氏。
そこで意識したのが、現場とシステム開発の間のデジタルサービス運営部(升森氏のチーム)が橋渡し役になること。現場からツールが欲しいといわれた際「それで何をやりたいのか」を確認し、既存のツールなどで試してから、必要であれば開発を開始する流れが理想的だとした。
「いきなり開発して失敗してしまうともう後戻りできない。まずはやりたいことが何なのか確認した上で、小さく運用をしてみることが重要です」(升森氏)
こうして升森氏のチームが各店舗のスタッフと日々コミュニケーションを取りながら、開発チームではスクラム体制のアジャイル開発で毎週リリースを行っているという。
さらにアジャイル開発においてはスピードが鍵で、意思決定者との縦のコミュニケーションも重要だ。そこで升森氏のチームと開発者、意思決定者である役員の三者で毎週会議をしているという。それも、アイデア段階の意見を交換しリリースの進捗や効果を共有するカジュアルなもの。こうすることで全体の認識齟齬を避け、スピーディな意思決定とリリースにつながっているという。